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2015年4月14日

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香田洋二 (こうだ・ようじ)

ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官

1949年生まれ。72年防衛大学校卒業。海上幕僚幹部防衛部長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年に退官。09~11年、米ハーバード大学アジアセンター上席研究員。

中国は南シナ海で環礁埋め立てによる軍事基地の建設をすすめる。アジア太平洋地域における米軍の対中優位を維持するには日米に加え、豪との一体的な潜水艦運用が効果的だ。

 2月20日、オーストラリア(豪)アンドリューズ国防相が2020年代に退役するコリンズ級潜水艦6隻に代わる新たな潜水艦(新型SS)の導入について「日、独、仏が提携相手になる能力があるか選定するプロセスに加わる」と述べた。

 豪は戦略文書において「世界においてアジア太平洋地域へ戦略重心が移動する歴史的シフトが進行している」とし、これに的確に対応するため(1)豪軍の戦力強化、(2)アジア太平洋地域への関与の強化が必要としている。戦力強化面では積極的な兵力整備計画である「戦力2030」を発表しており、本構想は大国間関係の変化及び豪周辺諸国の軍事力拡大の両リスクに対して確実に対応しうる軍事力、特に在来兵力による抑止力を構築するものである。

 その実現には財政事情等もあり不透明な面もあるが、本計画において豪政府が最も重視するのは潜水艦を新型SS12隻へと倍増する構想である。また、注目すべきは兵力整備のあらゆる要素を考慮した結果、原子力潜水艦を採用した場合に必要な生産・整備補給・教育訓練・核廃棄物処理等に必要な国家的資源が、国家としての負担限界をはるかに超えたものとなることから、豪政府は在来型(ディーゼル型)に限定していることである。 豪が新型SSを重要視する理由は中国による海洋活動の活発化にほかならない。近年の中国の経済発展とこれに支えられた海軍兵力の増強と強引な海洋活動の活発化は、周辺諸国のみならず世界の関心事となっている。特に、南シナ海において中国は国際法上も歴史的にも全く根拠のない「牛の舌の形をした9段線」(Nine-Dashed Line)と称される海域に対する占有的な権利を主張しており、南シナ海では周辺諸国のみならず我が国や米国との対立が先鋭化している。

 当面米軍に対して質量両面で劣る中国軍は本格的な軍事衝突を避けて米軍の弱点を突く能力を構築して米軍のアジアにおけるプレゼンス(平時)、介入(危機)及び軍事作戦(有事)を抑止するための「近接阻止・領域使用拒否(Anti-Access Area Denial:A2AD)戦略」を打ち出して、戦わずして米国民の意志を減退させて米軍の展開と介入を阻止しようとしている。

 これに対し米国はリバランスに代表されるアジア太平洋重視政策に基づき、軍事面では米軍のプレゼンス・近接確保(Presence/Access Assurance)戦略を推進している。また、米国は米軍の対中優位を維持するとともに同盟国との連携強化を推進している。その柱が日米同盟体制であるが、同時に米豪同盟の意義も大きい。

 四周環海の豪は米豪同盟を安全保障の基本とした上で周辺諸国とは積極的に友好関係を推進しており、一時懸念されたインドネシアとの関係も改善し喫緊の安全保障上の不安はない。

 その前提で、大国間関係の変化及び周辺諸国の軍事能力強化が進捗した場合、豪に対する負の影響は全て海・空を経ての脅威であるとの認識の下、豪は(1)自国にとって好ましくない安全保障環境の出現を防止するとともに、仮に(2)その事態が生起したとしても悪化を制御し、更に(3)最悪の事態に陥った場合でも脅威を確実に排除することができる通常戦力による戦略打撃機能の保有を軍事力整備の目的としている。

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