時代によって変わる
台湾の現状維持の解釈


世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察するコラム。

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台湾国立中山大学の陳茂雄教授が、7月21日付台北タイムズ掲載の論説にて、台湾の現状維持の意味は時代と文脈によって変わっており、独立派の解釈と、国民党、特に馬政権の解釈には相違がある、と指摘しています。

 すなわち、民進党の蔡英文総統候補の両岸関係の現状維持の提案は、泛藍陣営(国民党系)と泛緑陣営(独立派)の双方から批判を受けている。泛藍陣営は「蔡が国民党の考えを剽窃した」と言い、独立派は「蔡は国民党のマニフェストを擁護している」として批判的である。しかし、現状維持の意味には、時と文脈により異なる解釈がある。

 蒋介石、蒋経国が総統だった時代、国民党のレトリックは、孫文の三民主義に基づく中国の回復・統一から、中国共産党とは「接触しない、妥協しない、交渉しない」との「三不政策」に変化した。

中正紀念堂には蒋介石の巨大な坐像がある(画像:iStock)

 国民党による独裁統治時代、「党外運動」が民主化を要求し、国民党は中華民国と同義であるとして、中華民国の転覆を提案する運動すらあった。当時の国民党独裁体制は、「共産主義の山賊」が台湾を侵略しようとしているとして、独裁体制としての国民党の地位の維持を「現状維持」と称した。それに反対する台湾人は、民主主義、さらには中華民国の転覆すら主張して、現状を変更しようとした。

 蒋経国の後、李登輝副総統が総統となり、彼が進めた台湾民主化プロセスは、独裁体制が維持しようとした「現状」を終わらせた。国民党にとり台湾人による政府は受け入れられないものであったので、国民党は、反共から親共産党に態度を急変させ、蒋経国の「三不政策」を放棄し、統一へと向かい始めた。

 特に馬英九の総統就任後、台湾経済は中国に依存し、中国との統一という国民党の目標に近づいていった。しかし、独立派の支持者は中国との統一に反対し、それがために現状維持政策が提案された。

 独立派も馬政権も現状維持を求めているが、馬の言う現状維持は台湾と中国は「一つの国、二つの地域」を意味し、独立派の現状維持の定義は、「法的には通常の国家ではないにせよ台湾は主権国家である」との台湾前途決議文に沿ったものであり、明らかに、両派が主張する現状維持の意味は異なっている、と述べています。

出典:陳茂雄,‘The different meanings of maintaining ‘status quo’’(Taipei Times, July 21, 2015)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2015/07/21/2003623527

* * *

 台湾における「現状維持」の解釈は時代とともに変わり、曖昧なものである、という本論の指摘は間違いではありません。しかし、現時点で台湾の「現状維持」が問題とされるのは、具体的な政策課題として、それが適切であるかどうかという点です。とくに、民主化した台湾と独裁体制下にある中国の間での「現状維持」とは何かということがその核心となります。

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