映画を変えるバーチャルリアリティ


土方細秩子 (ひじかた・さちこ)  ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

WEDGE REPORT

時間軸の長い視点で深く掘り下げて、世界の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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2016年のラスベガスCESで最も展示ブースの多かった分野が「バーチャルリアリティ(VR)」「3Dプリンター」「ウエアラブルデバイス」「ドローン」だった。これらがコンシューマープロダクツとしてますます人気が高まっていることは間違いない。

 その中で、ハリウッド映画産業すらも動かしかねない影響力を持つのがVRだ。ユーチューブのCBO、ロバート・キンクル氏の基調演説の中でもVRがデジタルビデオにもたらした変革は重要な要素として語られた。そして今、ハリウッドも映画制作においてVRが「ゲームチェンジャー」になる、と認識している。 

iStock

 CTA (Consumer Technology Association)とNATPE (National Association of Television Program Executives)は、ハリウッドのコンテント・クリエーターに対するVRについての聞き取り調査結果をCESで発表した。両団体は数年にわたるパートナーシップを組み、映像産業の未来についての研究調査を続行中だ。

 調査によると、ハリウッド関係者の多くはVR時代の到来を「一時的なものではなく継続的なものになる、映画やテレビの視聴のあり方を変えるものになる可能性を秘める」と認識しているが、VR映像が一般化するまでには数々のハードルがあることも理解している。ハードルには「コンテンツ・クリエーションに関するサステイナブルなモデルの設定」「利益を生み出す確固たる方法」「長時間の映像視聴に耐えうる視聴環境」などがある。

広がるVRエコシステム

 CTAのマーケット・リサーチ部門シニアディレクターのスティーブ・コーニング氏は「VRは最新の没入型エンターテイメントのプラットホームであり、昨年には膨大な数のコンテンツ開発の実験が行われた。VRエコシステムは2016年を通してさらに広がりを見せるだろう」と予測。NATPEの社長兼CEO、ロッド・パース氏は「VRの未来は質の高いコンテンツの提供にかかっている。今回の調査ではハリウッドがVRを導入する分野の可能性と、VRの限界についての現実的な問題点を指摘した」と語った。

 VRが現在最も利用されているのはゲームの分野だ。しかし「フルに没入型の環境を与えられたとしたら」VRは映像の世界にも大きな変化をもたらすものとなる。ハリウッド関係者がVRの今後の可能性として一番に挙げたのは「ホラームービー」だった。360度の視界が提供され、背後から何かが忍び寄る……そんなエキサイティングな映像世界が楽しめるのはホラー、という考えだ。さらに、スポーツ観戦イベント、コンサートなどもVRによるライブ映像でより広範囲な視聴とダイナミックな映像が提供できる、と期待される。

 ただし、ハリウッドがVR向け映像を制作販売する、あるいは劇場でVR映画を公開するまでには、越えるべきハードルも多い。映像販売ではVR用のヘッドセット販売が不可欠になるが、果たしてどれだけの消費者がVR視聴のためにヘッドセットを購入する意欲があるのか。また長時間のVR視聴で「気分が悪くなる」といった問題をどう解決するのか。劇場公開の場合は、観客に配布するヘッドセットのコストは興行収入に見合うものになるのか。コンテンツ制作のための技術的問題もまだまだ改善の余地がある。

 しかしハリウッド関係者の多くはVRを「新しい映像視聴の方法であり、観客が全く新しいエンターテイメントを体験できるプラットホームとして定着する」と見ている。3D映像が今や普通に映画館で見られるように、将来は劇場映画にも「通常盤」「3D盤」「VR盤」のカテゴリーが生まれる可能性は大きい。

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著者

土方細秩子(ひじかた・さちこ)

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ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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