前向きに読み解く経済の裏側

2016年6月6日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 世の中で起きている事を正しく理解するために必要な事は何でしょうか?「正確な情報を集めることと、それを的確に分析すること」でしょうか。誤った情報や虚偽の情報を排除する事は容易ではありませんが、さらに難しいのは、黙っている人の声を聞くことだと、筆者は考えています。

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満足している人は黙っている

 筆者が教室で講義をしている時、「暑いからクーラーを入れて下さい」という学生がいたとします。クーラーを入れるべきでしょうか? 筆者はそうは思いません。声をあげなかった学生は、現状に満足しているから黙っているだけかも知れないからです。もしも筆者がクーラーを入れたら、残りの学生から「寒い」というブーイングを受けるかも知れないわけです。そこで筆者は、学生に「クーラーを入れて欲しい人は挙手して下さい」というアンケートを採ることにしています。

 教室のクーラーであれば、アンケートを採るべきだと気付くことができますし、アンケート自体も容易ですから、大した問題にはなりませんが、世の中には難しいケースが少なくありません。

 政府が農産物の輸入自由化を計画すると、農家の人々が必死に反対運動を行ないます。彼等にとっては死活問題ですから、当然のことです。しかし、筆者を含む非農家の人々は、積極的に賛成運動をする必要が無いので、黙っています。政府が計画しているのですから、わざわざ運動をする必要が無いからです。こうした場合、政府としては「農家が反対している一方、特に賛成の声が聞こえて来ないから、自由化計画は中止しよう」と考えるべきでは無いでしょう。

 もっとも、農産物自由化問題の場合には、これとは別の要因も考える必要があります。それは、非農家にとっては重要な問題ではない、という事です。自由化のデメリットは少数の農家が大きな打撃を被るわけですが、自由化のメリットは大勢の非農家が少しずつ享受します。従って、必死になって自由化を推進したいと思って行動する人がいないのです。

 こうした事を考えずに政府が自由化計画を中止したり、さらには関税を引き上げたりすると、次の選挙で与党が大打撃を受けるかもしれないので、要注意です。

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