2024年4月27日(土)

イノベーションの風を読む

2016年6月3日

 成果主義によって「目標を達成すれば報酬を与える」といった外発的な動機づけが行き過ぎると、社員は目の前の目標を達成することだけに集中するようになる。仕事をする過程で何らかの問題に気づいたり疑問を持ったりしたとき、それが自分の目標に関係がなかったり、その問題や疑問を明らかにすることが自分の目標の達成に障害になったりすると、それを見過ごすようになって組織としての自浄作用が失われてしまう。

 日本企業の労働生産性の低さを、成果主義の導入の理由に挙げる意見もある。日本の労働生産性は、主要先進7ヵ国の中で最も低い状態が続いているという(日本生産性本部 日本の生産性の動向 2015年年版)。労働生産性の国際的な比較には、労働生産性 = GDP / 就業者数(または就業者数 x 労働時間)という式が用いられている。この式では、各国の産業構造の違いによる差が大きくなる。さらにGDPが落ち込んでも、リストラなどの雇用調整によって統計上の就業者が大きく減少すれば労働生産性は向上する。経済状況が悪化しているギリシャやスペインといった国の労働生産性が日本を上回っていることからも、数字を単純に比較することには意味がないことがわかる。あえて製造業の労働生産性を比較すれば、日本はドイツや英国を上回り、主要先進7ヵ国の中で米国とフランスに次ぐ水準になっている。

労働生産性が上昇しても賃金はあまり上昇せず

 日本生産性本部が「これまでは労働生産性が上昇しても賃金はあまり上昇せず、賃金の高い人材を育てる人材育成投資が増加しているわけでもない。むしろ、企業が利益を海外への M&A 投資に振り向けたり、内部留保として溜め込むような状況が続いている」とコメントしているように、1995年度から2014年度までの5年単位の実質労働生産性上昇率が、0.8% 1.5% 0.4% 0.3%とプラスで推移しているのに対し、実質賃金上昇率は、-0.3% -0.5% -0.8% -1.3%と下げ幅を拡大し続けている。

 成果主義は人件費をコストとして考え、その財務的な効率を最大化しようとする仕組みだ。目標より高い成果を出せば報酬を上げるだけではなく、成果が低ければ報酬を下げるという罰が与えられる。社員をコストとしてしか見ていないという会社の姿勢が伝われば、社員の仕事に対する意欲は低下してしまう。生産性の向上など期待できるはずがなく、会社へのロイヤルティも失われてしまうだろう。


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