海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年8月4日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、ヒラリー・クリントン候補が指名受諾演説で発信した「一緒になればもっと強くなれる」というメッセージです。共和党全国大会における指名受諾演説で不動産王ドナルド・トランプ候補は、米国社会が直面している諸問題を挙げて、暗黒な部分に焦点を当てました。一方、クリントン候補は有権者に向かって未来や機会について語ったのです。その中で同候補は、「一緒になればもっと強くなれる」という新しいメッセージを発信しました。本稿では、このメッセージの狙いと意義を分析します。

指名受諾演説を行うクリントン氏(GettyImages)

「一緒になればもっと強くなれる」

 昨年8月、研究の一環として中西部アイオワ州デモインにあるクリントン選対に入り、今年の6月までに9つの州で活動をしてきました。その内容は、主として戸別訪問及び電話による支持要請です。民主党候補指名争いにおけるクリントン陣営の核となるメッセージは、「ヒラリーは私たちのために戦っている」でした。クリントン候補も「私は皆さんのために戦う」と主張してきたのです。

 ところが、民主党全国党大会が近づくとクリントン陣営は、「私は皆さんのために戦う」から「一緒になればもっと強くなれる」にメッセージを変えたのです。その狙いはどこにあるのでしょうか。

 一言で言いますと、トランプ候補のメッセージ潰しにあります。クリントン候補は、メッセージの主語を「私」から「私たち」に修正しました。そのうえで、同候補は、トランプ候補が指名受諾演説で発した「私は自分だけで問題を解決できる」というメッセージを非難し、米国社会が遭遇している諸問題に対して協力して一緒に解決していこうと呼び掛けたのです。

 さらに、クリントン候補はトランプ候補を「分断者」とレッテルを貼り、同候補の「私はあなたの声になる」というメッセージも潰しました。同候補を党、コミュニティ、社会及び国を分断し、有権者に気遣うことをしない候補として描いたのです。女性、ヒスパニック系並びに障害者などを蔑視する同候補は、有権者の声を代弁していないという明確なメッセージを放つことにクリントン候補は成功したのです。

 ただ、クリントン候補はトランプ候補が指名受諾演説の冒頭で述べた「法を守り秩序を回復する候補」というメッセージは潰せませんでした。同候補は、米国社会で繰り返される銃乱射事件や警察官を狙った銃撃事件を取り挙げて、法を守り秩序を回復させることによって問題を解決すると誓ったのです。それに加えて、このメッセージの背景には、法を犯して自分のルールで公務を行うクリントン候補を有権者に思い出させるという意図があるのです。実に巧みなメッセージです。

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