WEDGE REPORT

2016年11月10日

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香西聡平 (こうさい・そうへい)

ワインジャーナリスト、 共同通信社元編集委員。

 第7次ワインブーム。ボジョレヌーボーブームや、健康に良いポリフェノール成分を含む赤ワインブームなどを経て、過去最高の消費量を更新している最近のトレンドから、そう言われている。しかし、ワインバーなどの店頭から家庭の食卓まで、今や普段の食生活に深く浸透、単なる一時の流行を超えて、ワイン食文化が根付くまでになっている。フランス、イタリア、カリフォルニア、チリなど世界中のワインが溢れかえっている中で、国産ワインにも人気が集まっている。そのリード役を担うのが甲州ワインだ。

日本固有の甲州種白ワインが初のプラチナ賞

 東京から中央高速に乗り、甲斐路を目指して1時間半。上り坂で小雨がぱらぱらと落ちてきたが、峠を越えると雨は降っておらず、快晴の甲州盆地が眼下に広がる。雨雲はぐるりと盆地を囲む山並みに沿って上空に留まり、盆地内だけが秋晴れとなっている不思議な光景だ。ワインツアーのバスは、なだらかな下り斜面に緑の葉が一面に広がる勝沼町のブドウ畑「鳥居平」地区に停車した。

鳥居平地区で実った甲州種ブドウ

 勝沼は日本ワイン発祥の地。その一角を占める中央葡萄酒が契約し、栽培を任せる農家のブドウ棚には、日本固有の甲州品種である淡い緑と茶褐色の房がたわわに実っている。一房ごとに虫除けの紙が掛けられ、契約農家の丹精な栽培がうかがわれる。下草が刈られていないのは、土壌の養分がブドウの木に余分に回らないようにする作り手の知恵でもある。 中央葡萄酒は1923年創業の老舗で、地元の有力ワイナリー(醸造所)の1つだ。広報担当の柿島一郎さんが、勝沼ブドウの説明をする中で、ツアーの一行に問いかけた。「ブドウの生育に最も重要なのは、何でしょうか」。

 「水」、「気温」、「土壌」、の声が上がったが、柿島さんから返ってきた答えは「それは、ぶどうの木です」。拍子抜けするような答えの真意は、これまでブドウ栽培に注いできたエネルギーが、今日の質の向上をもたらしたとの誇りである。かつては生食用に栽培したブドウの過剰分や、くずブドウをワイン醸造用に回していたが、2000年年頃からワイン専用のブドウ栽培を本格化。「薄くて甘い」と評価の低かったワインが、世界で高い評価を得るまでになったのだ。

ロンドンのワインコンクールでプラチナ賞に輝いた「グレイス甲州2015」

 今年6月にロンドンで開催された世界最大規模のワインコンクールである「デキャンタ ワールドワイン アワード2016」で、甲州種の白ワイン「グレイス甲州2015」が最高位のプラチナ賞とベストアジア賞の栄冠に輝いた。これまで同社は内外で幾多の受賞実績があるが、世界のコンクールで初めて最高位のグランプリに上り詰めた。口に含むと、柑橘系の香りが立ち、透明感があり、バランスの良い逸品だ。ライトボディのソーヴィニオンブランに通じるテイストだが、和食にマッチする優しさも感じられる。和食が世界的に静かなブームとなっている中で、今回の甲州ワインの高い評価は、和食ブームと一体と捉えるとよく理解できそうだ。

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