2024年4月26日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年3月17日

 上院議員になったばかりの新人議員に過ぎないオバマに対し、民主党の重鎮の大物議員が大統領選への出馬を実は早い時期に促していた逸話なども披露。有力候補とみられていたヒラリー・クリントンに対し、民主党内でも反発が強かったことが分かる。

 本書はそのヒラリー・クリントン陣営の動きも詳細に描く。夫であり元大統領のビル・クリントンの女性スキャンダルが、選挙戦の足かせになることを恐れる選挙対策本部の参謀たちは、陣営内に秘密の調査チームを結成し、ビル・クリントンを巡るさまざまなゴシップやうわさを調査し、ある愛人の存在に突き当たったという裏話は興味深い。

 ごう慢との印象のあるヒラリーも、大統領選に名乗りを上げる前には、心が揺れた。そんな時、相談した相手は夫だったという次の一節も感動的でさえある。お正月にカリブ海のビーチでくつろいでいるときに、ヒラリーは夫に話しかけた。

 What should I do, Bill? she asked. Should I do this or not?
  You have to ask yourself one question, he replied. Of all the people running, would I be the best president? If you can answer yes, then you need to run. If you’re not sure, then you need to think more about it, and if the answer is no, don’t do it. That’s all I can tell you, Bill said.
  Not long after, Solis Doyle’s phone rang back in Washington.
“Bill said that if I really feel like I can do this, and do a good job and be the best one, then I should do it,” Hillary said. “And I do believe that.” (p80)

 「ビル、私はどうすべきなの? ヒラリーは問いかけた。私は立候補すべき、それともすべきではない?
  ある1つの問いを自問すべきだ、とビルは答えた。候補者全員のなかで、自分が最も優れた大統領になれるかどうか。答えがイエスなら、立候補すべきだ。答えがノーなら、やめるべきだ。これが私がアドバイスできるすべてだ、とビルは言った。
  しばらくして、ワシントンの(ヒラリーのアシスタントの)ソリス・ドイルの電話が鳴った。『ビルが言うには、自分ができると感じ、いい仕事ができる、そして最高の大統領になれると考えるなら、私は立候補すべきだと』ヒラリーは言った。『そして、私は確かにそう信じているの』」

 しかし、ヒラリーは民主党内の大統領候補の指名争いで、ほとんど国政レベルでの実績のないオバマに敗れる。オバマに対する好意的な報道を続けるマスメディアなどに、ヒラリー陣営が苦戦を強いられた実態を克明に追う。

エリザベス・エドワーズはcrazy ?

 本書はさらに、やはり民主党の大統領候補の指名選挙に立候補したジョン・エドワーズ陣営の内幕も容赦なくさらけ出す。エドワーズ元上院議員は2004年の大統領選では、民主党のケリー上院議員の副大統領候補として、共和党のブッシュ陣営に敗れた。04年の大統領選には負けたものの、全米で脚光を浴びたことでエドワーズは勘違いして態度が尊大になるなど人格が変わっていく。庶民派の弁護士として活躍し好感度が高かったはずなのに、女性ビデオカメラマンと不倫の関係に陥る。選挙対策チームの参謀たちの諫言にも耳を貸さず、選挙キャンペーンの旅行にも不倫相手の女性を同伴する始末。隠し子報道まで出て、妻が半狂乱になる修羅場なども本書は活写する。


新着記事

»もっと見る