2024年4月26日(金)

ネット炎上のかけらを拾いに

2016年11月29日

 しかし、1文字1円以下という価格で厳しいダメ出しが入るというのも、なかなか過酷な仕事だ。文章を書くという作業が、これほど低く見積もられている現場があるのだなと悲しく感じる。

 そう、文章を書くという行為は、「誰にでもできる」と思われがちだ。実際、現代に生きる人は毎日大量の文字を綴っている。プライベートのLINEや、仕事のメール、自分のブログやSNS、ニュースサイトのコメント欄で。義務教育の基本は書くことにあるのだから、文章を書くのは誰もが身に着けているスキルであると思われている。ビジネスシーンにおいて、わざわざ「私は文章が書けます」などと言う人はいない。

 しかし、多くの人がやすやすと文章を書けるのは、自分が考えていること、思っていることについてのみだったりする。プライベートでの他愛のないメールのやり取りは好きでも、ビジネスメールになるとピタリと手が止まってしまう人もいるだろう。

 人が言っていることや本に書いてあることを要約したり、インタビューを面白く構成したり、難しい専門的な文章を一般の人が読めるようにリライトしたり……といった行為は、それなりのスキルや経験が必要になる。

 WELQでクラウドソーシングを通じて記事を発注していたライターは、ライターの中でも「100円ライター」「1文字1円ライター」などと揶揄されることがある。心あるライターや編集者は、「WELQのようなサイトで記事を何本書いてもライターとしての経験値にはならない」と苦言する。自ら取材しない、文責を持たない。そんな記事をいくら書いたって無駄だと。

かたや1記事20万円 今ここにあるライターの賃金格差

 しかし筆者は、こうも思う。WELQがライターに求めていたものは、本来「医療や美容などの専門的な内容について」「正確な情報を集め」「パクリにならないように引用し」「それなりにキーワードを散りばめ」「全文にわたって整合性の取れた内容」にすることだったと思う。こういったレベルの記事を大量に作るのは、本来とても難しいことだ。実際、WELQが生産した記事は正確な情報を集められていないし、コピペになってしまっているし、整合性も取れていない文章が散見する。

 もし、WELQの求めるクオリティーを完全にクリアした原稿を毎日30本書けるライターがいたとしたら、それに支払われるべき対価は1文字1円以下では決してない。それなのにWELQは、簡単で誰にでもできる副業かのように、安価でライターを募集した。ツイッター上では「まるで奴隷労働だ」と指摘されていたが、本当にそう思う。肉体を酷使する仕事ではないが、精神的に疲弊する仕事であることは、同じライターとしてよくわかる。

 一方、ウェブ業界の一部では、いかに記事をバズらせるか、拡散することができるかが、ライターの評価軸として確立しつつある。フォロワーが1万人以上いることを誇る、あるPRライターは、1記事20万円だと自身の原稿料を公開していた。5000PVが1つの指標なのだそうだ。5000PVなんて、既存のメディアや大手ポータルサイトからしたら大した数字ではないのだが、広く知られていないオウンドメディアを餌場とすれば、こんなPV数でも価値がつけられる。

 それもライターとして一つの生き残り方だと思うし、特にマイナーメディアにおいて拡散力が評価の大きな軸となっているのは、現状では仕方のないことだと思う。しかし、情報をきちんと精査する能力や、文章力や構成力に長けたライターも、制作側がきちんと評価していかなければいけないと感じる。彼らの仕事は一見地味に見えるが、彼らが活躍できる場がなければ、質の良いコンテンツは枯渇し続け、読者がインターネットを諦めるからだ。拡散力を持つか1文字1円の仕事か。その2択になってしまうインターネットを見たくない。WELQのようなサイトに読者が吸収され続けるのは、ちょっともう見てられない。

  
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