2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2017年5月29日

 サルマーン国王は今年3月のアジア歴訪で日中両国を訪問しているが、その主目的は投資を呼び込み、サウジ経済を分散化させることにある。サウジは若年層の4分の1が失業しているなど、雇用創出が喫緊の課題となっている。雇用創出に大きく寄与する自動車産業への期待は大きく、また、日本が先端技術をもつ海水淡水化プロジェクトの共同開発などもサウジ側が望んでいる。前者はトヨタ自動車、後者は東洋紡の名が具体的に挙がっているが、こうした民間も巻き込んだ取り組みが成否を分けることになりそうだ。

今年3月、サルマーン国王は中国を訪れた (写真・REUTERS/AFLO)

 ところで、このIPOは今年4月発表の「サウジビジョン2030」の下で脱石油を目指すサウジの戦略の中核に位置する。15年以降、サウジでは深刻な財政赤字が続いており、石油一本足打法への焦燥が顕在化している。

「2兆ドル」は本当か?IPOに向けた大きな障壁

 サウジアラムコは株式の5%を上場する計画であるが、IPOの開始時期が迫り、潜在的な市場価値についての議論が沸騰している。2兆ドルの評価をめぐっては「2分の1だ」「5分の1だ」というサウジの評価を疑う声が聞こえてくる。

 評価額を引き上げるべく、サウジ政府は3月、サウジアラムコの法人税を85%から50%に引き下げ、将来受け取るキャッシュフローの額を増やした。

 また、昨年11月30日のOPEC総会でサウジアラビアは重い腰を上げ、減産合意にこぎ着けた。今年5月25日に予定されているOPEC総会でも減産延長という予想が多く、こうしたサウジの「心変わり」はアラムコ上場をにらんだ動きであることは明らかである。

 なお、上場に当たっては厳格な情報開示が求められ、原油埋蔵量の開示を始め、収入と歳出が明らかになることから、王族への資金流入など、サウジにとって「不都合な事実」がさらされることなど、障壁もある。

 IPOを通じて得た資金は公的投資ファンド(PIF)に移し、エネルギー分野だけでなく、様々な分野に投資を行い、歳入を分散化する狙いである。PIFは現在約1600億ドル(約18兆円)の資産を保有し、ソフトバンクグループと共同でIT関連分野への投資ファンドを立ち上げることで合意した。PIFはIPOを通じて、世界最大の政府系ファンドとなるが、その投資先は常に注目を集めることになるだろう。

 東証に上場すれば、日本の年金基金や機関投資家が株を保有しやすくなる。これは日本にとってサウジとの関係強化に一定の意味をもつだろう。日本では原子力に多くを期待することが難しくなってきている上、中東情勢は混迷が続く可能性が高い。サウジとイランの折り合いの悪さも増しているため、安定した原油の供給先を確保しておくことは重要である。

 来年の上場へ向け、「騒動」から目を離すことができなくなっている。

  
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◆Wedge2017年6月号より


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