ある成年後見人の手記

2017年8月10日

»著者プロフィール
閉じる

松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

後見人の孤立が犯罪につながる

 私が後見人事務に忙殺される最中の09年10月24日、毎日新聞(大阪版)朝刊は、ラジオパーソナリティー堂島裕子(当時41歳、仮名)の顔写真を掲げ、後見人の犯罪と報じた。

 報道によると、大阪市在住の堂島は09年10月、成年後見人となっていた伯母(78歳)の預金計220万円を着服した疑いで大阪府警に業務上横領容疑で逮捕された。

 以前の私ならば、「伯母の金を200万円も着服するとは、ひどい姪」と切り捨てただろう。だが自身の体験を経てみると、罪を罪として問うのは当然だが、見ず知らずの堂島が余儀なくされたかもしれない「孤立」に思いが走ってならなかった。

 堂島が後見人を解任、逮捕されたことを、その伯母が認識できたら、はたして喜ぶだろうか?代わりに選任された後見人は弁護士のようだが、堂島以上のサービスを提供するだろうか?

 私の体験から類推すると、家裁が認定する立替払いに弁護士料、見舞い経費や交通・通信費などを加えた後見人候補時代の堂島の持ち出しは、100万円を超えていた可能性もある。そして戻って来ない金も多額。こう考えると200万円超の使い込みと言い切れるのか? 決算予算をきっちり記録していなかったら、どの後見人でも犯罪者扱いされかねない。

 また、ある弁護士の体験談を思い出した。兵庫県在住の高齢女性の後見人を、弁護士として務めた。この被後見人が死亡し2億5000万円の資産を残した。葬儀を取り仕切る近親者がおらず、弁護士である自分が15万円の葬儀を主催し遺産は血族に配分したというケースだ。この弁護士は、生前の彼女を見舞うことはまれだったと言い足した。高値の葬儀が良いというわけではないが、被後見人の尊厳への顧慮は十分だっただろうか。このケースでは、弁護士の姿勢を批判したいのではない。後見制度の下で起きている事態に疑問を禁じ得ないのである。

 親族が後見人を引き受けなかったら、自治体首長による後見人申し立てが急増しよう。団塊世代の高齢化が拍車を掛ける。社会負担の拡大は必至だ。ならば、立法はじめ三権、社会や周囲は、後見人を引き受ける親族に対し、尊敬の思いで接し、その努力を支え、個人負担を軽減すべきだろう。だが現実は、特に司法こそが、その姿勢を欠いている。

 後見人と同候補が、ゆとりを持って被後見人の面倒をみられるよう制度改革を急ぐべきだ。それが、後見制度を普及させ、後見人の犯罪を減らす道の一つだと信じる。
(つづく・葬式代が後見人の自腹はおかしい【ある後見人の手記(5)】)
狙われた預貯金、財産回収に奔走【ある成年後見人の手記(3)】

Wedge3月号 特集「成年後見人のススメ」認知症700万人時代に備える
 

PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線


Wedge3月号はこちらのリンク先にてお買い求めいただけます。


  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る