ネット炎上のかけらを拾いに

2018年1月18日

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権力関係を無視した「枕営業もある」発言

 1月10日放送の『バイキング』では、おぎやはぎの小木博明が、ハリウッドのセクハラ告発について「セクハラを訴えた人の中にも枕営業で売れた人がいっぱいいたと思う」「売れたあとにそれ言うのはズルい」とコメントしたという。参考:おぎやはぎ小木「枕営業得した人いた」metoo運動批判で炎上(女性自身)(http://blogos.com/article/270633/

 この件に関する『バイキング』での失言は今回だけではない。昨年10月12日、セクハラ告発が話題となり始めたタイミングでの放送では、司会の坂上忍が「ワインスタインさんがやったことは確かに悪いことなんですけど、逆もありでしょう、女優さんのほうから実力者に」と発言し、これを受けた梅沢富美男が「枕営業なんて言葉がね、飛び交っているからね。こんなことは昔からじゃないの。私、言っていいなら喋るけど。こんなことやっているやつはいっぱいいるよ。気をつけろ、本当、テレビ局も映画監督も」とコメントしている。参考:ワインスタインの性的暴行を「女優が誘う枕営業もあるのに」と軽んじる『バイキング』の異常と、バラエティ番組のエンタメ的売春消費について(wezzy)(http://wezz-y.com/archives/50538

 セクハラと枕営業に共通するのは、それが権力を持つ者と持たざる者の関係の中で行われることだ。坂上は「逆もありでしょう、女優さんのほうから実力者に」と発言しているが、実力者がその申し出を断るのは容易いことだ。実力者が枕営業の誘惑を拒否することと、実力者が女優に枕営業を強いた場合に女優がそれを断ることの難しさは同列では語れない。

 小木や坂上、梅沢の発言は、まるで、セクハラや枕営業が対等な関係の中で行われることと思い込んでいるかのように見える。あまりにも、権力というものに対して無自覚だ。あるいは、力関係を意図的に無視している。そもそも、実際に行われたセクハラの告発に対して、こういう苦言めいた発言をすることで、彼らは何を守りたいのだろうか。日本の芸能界には絶対に「#metoo」を持ち込ませないという、強固な団結すら感じる。

告発する人が現われない「闇」

 彼らのような芸能人がこうやってセクハラや枕営業を茶化し、根本にある構造の問題を無視し続けるのであれば、日本の芸能界で「#metoo」は起こらないだろう。

 タイム誌の表紙を飾った「the Silence Breakers」は黒い服を着た5人の女性だ。さらにもう一人、表紙の片隅に、右腕だけ映り込んだ人物がいる。これは、事情があって名前や顔を明らかにできないものの告発に加わった人を表現しているという。

 性暴力の告発は、被害者にとって大きな負担となる。被害者の方が職を失ったり、世間から笑いものにされたり、ときには加害者から逆恨みを受けて攻撃されることすらある。だから姿を隠し、あるいは沈黙する。統計に残る性犯罪の数字は「氷山の一角」と言われる理由がここにある。

 国連薬物犯罪事務所の資料(2013年)によれば、人口10万にあたりの強姦事件の発生件数はアメリカが35.9件、イギリスが36.4件、日本は1.1件(※)。これだけを聞けば日本は安全な国に見えるだろうが、凄惨な強姦事件や強姦殺人事件がたびたび報じられているインドは2.6件。統計上ではインドもまた安全な国なのだ。

 女性蔑視が強く、女性が自分の意見を主張しづらい国では、被害者を沈黙させる力が大きい。伊藤詩織さんの例を挙げるまでもなく、告発者が疑われ、まともに話を聞かれないような国で、声を挙げられる人は少ないだろう。

 海外のセクハラ告発の話題について、司会やコメンテーターたちが笑いながら「枕営業」の話題を持ち出す国。日本の芸能界でセクハラ告発が行われないのはなぜなのか。沈黙の闇深さを感じずにはいられない。

(※)日本では2017年の刑法改正まで、口腔性交や肛門性交の強要は「強制わいせつ」と位置付けられていた(改正後、強姦(現・強制性交等罪)と同等に)。欧米ではこれらを以前から強姦と定義する国が多いなど、「強姦」の定義の差やカウント方法にも差があるため、発生件数を単純に比較できないという指摘もある。

  
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