日本の芸能界には女が仕掛ける枕営業はあるが、セクハラはない。そういうことにしておきたい人が多いらしい。
盛り上がらない日本版#metoo
毎年話題になるアメリカ・タイム誌のパーソンオブザイヤー。2016年はドナルド・トランプが表紙を飾ったことを記憶している人も多いだろうが、2017年末に発表された「今年の人」は、「the Silence Breakers(沈黙を破った人たち)」だった。
もともとアメリカで「#metoo」が始まったのは、昨年10月に超大物プロデューサーであるハーベイ・ワインスタインが行った性的暴行を、女優や社員たちが告発したことがきっかけだ。グウィネス・パルトロウ、アンジェリーナ・ジョリーら有名女優たちも実名で被害を申し出た。告発記事からわずか約2週間後には、英国アカデミーがワインスタインを追放、ハリウッドのアカデミーも除名を決めている。
そして、ワインスタインのハリウッドでの除名が決まった頃に、女優のアリッサ・ミラノがツイッター上で、被害に遭った人に対して「metoo(私も)」と、同じように声を上げてほしいと呼び掛けた。これまで、沈黙を余儀なくされていた人たちに向けて、今こそ連帯しようと呼び掛けたのだ。権力のある人に対する告発は、潰されやすい。けれど個人が連帯することによって闘えるかもしれない。まるで絵本のスイミーのように、性暴力の被害者たち(女性だけではない)は同じ方向を向いた。
さて、日本ではどうだろう。「#metoo」よりも以前、昨年5月に、ジャーナリストの伊藤詩織さんが準強姦被害の告発を行い、最近もニューヨークタイムズの一面で取り上げられるなど話題になっている。7月には、性犯罪に関する刑法の大幅な改正が110年ぶりに行われた。12月になって、ブロガー兼作家の「はあちゅう」さんが、電通勤務時代に上司からセクハラとパワハラを受けていたことを告発した。
こういった動きを受け、ツイッター上では「#metoo」と声を上げる女性もいた。しかし、日本での「#metoo」は、アメリカやヨーロッパと比べれば大きな話題になっていないと言わざるを得ない。
欧米と日本の「#metoo」の大きな違いは、大規模産業であるエンタメ業界へのメスが入っていないことだろう。
2013年にさかのぼる。ミス・インターナショナル世界グランプリの吉松育美さんが、大手芸能事務所の幹部によるストーカー行為を威力業務妨害などで訴え、外国人記者クラブで会見を開いた。海外で盛んに報じられたこの一件を、日本のメディアはほぼ黙殺。2016年に裁判が和解で終了した後も、深く取材した記事は見当たらない。芸能人の不倫は報道できても、大手事務所幹部の疑惑は報じられないのだろうか。