2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月26日

 今回のNATOサミットで発表された首脳宣言は、NATO条約第5条(集団防衛)へのコミットメントを再確認し、国防費をGDP比2%に充てる目標の達成に向けた各国の責任を確認し、法の支配に反するロシアの行動を非難し、NATOの即応態勢やサイバー防衛能力の向上を謳うなど、穏当な内容であった。トランプ氏は、国防費増額目標について、記者会見で「4%が正しいと思うが、まずは2%の目標を達成することが先である」と、やや軟化した。なお、トランプ氏はGDP比4%というが、米国自身も約3.5%にとどまる。

 ストルテンベルグは、トランプ氏の自尊心をくすぐりつつ、国防費増額、NATOの能力強化など、現在NATOに求められている課題を手際よくさばき、NATOの存在意義についても的確に説明している。国防費増額をめぐっては、予定されていなかった緊急会合を追加開催した。ストルテンベルグには、トランプ氏の「外圧」を利用して、加盟国が国防費をGDP比2%にするという2014年のウェールズ合意の達成が遅れていることを打開したい意図があると思われる。それは、NATOにとり必要なことである。

 上記演説では、アジアをめぐる認識にも注目したい。最近、欧州では、グローバルな経済・地政学の中心がアジア太平洋に移り、米国は欧州への関心が薄れてきた、として、大西洋同盟は過去のものになったので米国はもはや欧州を守ってくれない、というような論調が目につく。しかし、ストルテンベルグは、そういう見方には与せず「米国の欧州におけるプレゼンスは、アフリカ、アジア、中東への米国の戦力投射にとり枢要」と指摘している。その通りであろう。NATO加盟国でもある英国やフランスは、既存の自由主義的秩序を作り替えようとする中国を念頭に、最近、インド太平洋へのプレゼンスを急速に高めている。他方、米国の中国に対する厳しい見方は続くと見られる。NATOには、もちろん対中同盟になるなどということではないが、新しい安全保障環境に即したあり方を模索し得る余地もあるように思われる。

  
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