2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年8月2日

 上記会見では、トランプは大衆紙サンとのインタビューでの発言を修正し、英国とのFTAへの期待を表明しているが、インタビューで批判したメイ首相の方針というのは、7月6日の英閣僚によるBrexit後のEUとの関係についての合意「チェッカーズ合意」、および7月12日に英政府が発表した「白書」の方針である。メイ首相は白書の冒頭で、単一市場と関税同盟から離脱する、人の移動の自由と欧州司法裁判所の管轄権を終わらせると述べている。つまり、原則は曲げていないと述べている。

 しかし、それは強弁である。実態は、モノに関する限り、単一市場と関税同盟にとどまるという意味に解される。サービスについては現在の水準のEUへのアクセスは期待出来ないが別途の取決めを結びたいとしている。これでは、発言権を持たないままEUに縛られることになる。そうならないためには、少なくとも、人の移動の自由を終わらせた、欧州司法裁判所の管轄権は終わらせたといえねばならない。しかし、そのいずれも単一市場に残るための重大な障害になり得る

 これは問題であり、EU側が納得するか疑問である。さらに白書は、英国は独自の通商政策が可能となり、第三国とモノとサービス両面でFTA を自由に締結することが可能となる、としているが、単一市場と関税同盟に縛られる状態でどれほどの自由があるのか、はっきりしない。

 トランプのサンとのインタビューでの批判は、「メイがやろうとしている取引は国民投票とは違う。この取引の結果、英国ではなくEUと取引きするようなこととなるので、米国との貿易協定の機会は失われるであろう」という趣旨であった。トランプの言動は最も機微な話題に無神経に踏み込むものだが、指摘自体は当たっているかも知れない。米国の立場から見てEUのルールに縛られる英国市場の魅力が落ちることはあり得る。記者会見での発言は、EUを牽制したい両者の利害が一致して協調的なものになったものと思われる。とはいえ、米英関係は、米国と欧州の他の主要国との関係に比べれば、それほど刺々しいとは言えず、「特別な関係」と言ってよいように思われる。
 
 

  
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