科学で斬るスポーツ

2018年8月2日

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玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

コスチュームがきつくなる

 念入りな栄養摂取とトレーニングで羽生にも変化がでてきた。

 「コスチュームのお尻部分がきつくなっている」と羽生が語るほど筋肉がついてきた。筋肉がつき、筋肉に貯蔵されるグリコーゲンは増えていた。筋(貯蔵)グリコーゲンは、筋肉を動かすエネルギー源。食事として摂取した糖質は、通常の練習などで消費されるが、余剰分は筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられる。筋肉がつき、栄養もしっかり取れていることを意味する。

 「いわばガソリンタンクが大きくなっていた」と味の素の栗原秀文さんは当時の手ごたえを振り返る。

 そしてもうひとつ平昌五輪に備えた取り組みが始まっていた。SP(ショートプログラム)、フリーの滑る時間に合わせた食事摂取計画だ。

 本番は、最終組での登場が予想される羽生の演技は、午後1時半~2時にかけて行われる。そのため、夜の食事を軽くして、朝、昼の食事をしっかり取るという計画だ。朝食を早めにとり、試合時に空腹にならないように演技の時間から逆算して、昼食をとる。もちろん腹にたまらない栄養ゼリーなどでカロリーの調整をした。こうした3食のバランスを考えての食事摂取は一朝一夕ではできない。体にリズムを覚えこませるにも、じっくりと時間をかけた習慣化が不可欠だった。

アミノ酸、微量栄養素もチェック

 筋肉量を増やし、試合直前には筋肉に蓄えられる筋グリコーゲンを増やし、疲れにくい体にする。

 「筋肉生き生き、筋グリ(コーゲン)で金」を合言葉に食事、身体作りを行っていた。

図1 「アミノバイタル®」GOLD

 基本は、三食の食事をバランスよくとり、不足分は、練習や試合の前後に、筋肉に必要なたんぱく質を作るアミノ酸やビタミンが含まれるサプリメント「アミノバイタル®」を効率よく摂取する。「アミノバイタル®」GOLDは、必須アミノ酸を含んだスティック状の粉末で、1袋4.7g。このうち必須アミノ酸4000㎎のうちBCAA系アミノ酸が2479㎎入っており、練習前後に計3回ほど摂取するのが一般的だ。口の中に残らないような味付け、溶けやすい加工技術などの工夫などが施されている。

 BCAA系アミノ酸は、筋肉を構成する繊維、ミオシン、アクチンを作り出すバリン、ロイシン、イソロイシンの分岐鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acid=BCAA)のことで、筋肉のエネルギー作用に関係する。たんぱく質を作る20種類のアミノ酸のうちBCAAなど9種類は食事でしか摂取できない「必須アミノ酸」と言われる。なぜ、BCAAが重要かというと、筋グリコーゲンが使い果たされると、筋肉中のBCAAが使われるからだ。

 こうした取り組みが本当にいいのか。

 味の素㈱「ビクトリープロジェクト®」に参画した、味の素イノベーション研究所栄養代謝研究グループの加藤弘之博士は、羽生の食事の成分分析を行った。その結果、たんぱく質、炭水化物、脂肪の三大栄養素のほか、ビタミンやカルシウム、マグネシウムなどの微量栄養素の摂取量はおおむね良好だった。試合直前になると、緊張感から食事が十分にとれなくなる。そんな時は確かにたんぱく質の摂取量が減るが、「アミノバイタル®」を効率よく組み合わせることで必要な栄養はとれることが確認できた。

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