Washington Files

2018年11月12日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 今年の米中間選挙は、共和(上院)、民主(下院)がそれぞれ勝利し、痛み分けに終わったとする見方がある。これは的外れだ。大統領就任以来、猛威をふるった「トランプ主義」の限界が露呈した選挙でもあったことを見逃してはならない。

 選挙結果について、「下院は民主党に奪われたが、上院でわが方が過半数からさらに議席を増やした。全体では双方相討ちだ」(共和党全国委員会幹部)との指摘がある。

中間選挙後の記者会見で質問したCNNの記者を出入り禁止にしたトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 しかし、これは説得力のある総合評価とは言い難い。なぜなら、共和党の上院での改選議席数は当初から民主党よりはるかに少なく、現状より多少の上積みもある程度織り込み済みだったからだ。これに対し、全員改選の下院で主客が完全に入れ替わり、民主党が議席をかなり伸ばしたことの意義は過小評価できない。

 しかも特筆すべきことは目下、アメリカの景気、雇用は着実に拡大、きわめて好調な経済状況下にあるだけでなく、内外情勢も比較的安定しているにもかかわらず、今回このような選挙結果に至ったという事実だ。本来なら、政権与党の共和党が上下両院ともに引き続き過半数を制してもおかしくなかった。その意味を改めて考えてみる必要がある。 

 「下院で勝利したことをお祝いする。同時にあなたがこれまで示してきた超党派的リーダーシップを評価したい」

 民主党の8年ぶりの下院奪回が確実となった6日深夜、トランプ大統領はただちに次期下院議長就任が有力視されるナンシー・ペロシ女史に祝電を入れた。ホワイトハウス関係者によると、ペロシ女史の議長就任については、民主党内にまだ反対意見があり未確定であることから、側近が電話を控えるよう促したが、大統領はこれを無視、早々と野党への融和姿勢を見せた。

 その裏には、大統領就任以来、野党民主党の存在をほとんど無視するこれまでの独善的態度のままでは、今後の政権運営もおぼつかないため、早めに予防線を張ろうとする打算が見え隠れする。大統領が電話でわざわざ「民主党下院での超党派的リーダーシップ」に言及した狙いもそこにあった。

 言い換えれば、これまで国内外にさまざまな波紋を投げかけてきた破天荒な「トランプ主義」(Trumpism)の限界をはからずもさらけ出したことになる。

 「トランプ主義」とは(1)国家の危機をいたずらにあおる(2)人種間の対立をあえてかきたてる(3)常軌を逸脱した言動や独善的政権運営によりつねに有権者の関心を引き寄せる(4)虚言、誇張にみちたツイートやスピーチを繰り返しマスメディアを混乱させる――などからなる彼独特の特異な政治スタイルを指す。

 とくに「危機感増幅」については、ごく最近では、中米ホンジュラスからアメリカをめざす6〜7000人規模の移民集団(キャランバン)の動きについて「わが国の国家安全保障上の脅威だ」と誇大にあおり、メキシコ国境への1万人近くの軍隊投入まで言明したことに象徴されよう。しかし、軍隊派遣については本来、その性格上、敵国相手の戦闘行為を前提としたものであり、生活難から祖国を見捨てた子連れの家族や多くの未成年貧困者たちからなるキャラバンとの正面対決は筋違いであり、米議会やペンタゴン内部でも異論が渦巻いていた。

 また、「白人至上主義」を信奉する大統領は今回の中間選挙を通じ、各地の遊説先で「テロリストの侵入阻止」を口実に中東諸国からの移民、入国制限の重要性を繰り返し訴えてきた。 

 大統領の「虚言、誇張癖」については、すでに本欄でも指摘してきたが、ワシントン・ポスト紙専門チームの追跡調査によると、これまでの自らのツイートや発言を通じ「事実とは異なる(false)、あるいは誤解を招く(misleading)」発言回数は実に4700回以上にも達している(9月18日付け「先鋭化するトランプ大統領のメディア攻撃」)。

 こうした「トランプ主義」に対し手厳しい裁きが下ったのが、今回の中間選挙だった。以下にその結果を詳しく見ていきたい。

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