Washington Files

2018年11月2日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 6日投開票が行われる今年の米中間選挙は、例年と異なり、トランプ氏が大統領としてふさわしいかどうかを問うレファレンダム(国民投票)の様相を呈してきた。とくに民主党の優勢が伝えられる下院選挙と州知事選の結果次第では、再選の道さえ遠のく事態さえ指摘されている。

 「中間選挙はドナルド・トランプに対する国民投票だ」

 アメリカの良識派の有力雑誌として多大な影響力を誇る『ニューヨーカー』は投票日前日の11月5日付けのウィークリー版で、デービッド・レムニック編集長自らが執筆したこんな見出しの、珍しく語気鋭い番外記事を電子版に掲載した。

選挙キャンペーンでミズーリ州コロンビアを訪問したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 この中でレムニック氏は、トランプ政権発足以来、大統領自らの常軌を逸した言動によって、政治のみならず文化、思想を含め国民をいかに保守とリベラルとに分断化させてきたかに触れるとともに、今年の中間選挙の特殊性について以下のように論じている。

 「過去1〜2週間に熱烈なトランプ支持者の一人がオバマ前大統領、ヒラリー・クリントン前大統領候補、バイデン前副大統領、コーリー・ブッカー、カマラ・ハリス両上院議員らいずれも民主党所属の政治経験者や現役政治家たちを標的にしたパイプ爆弾を次々に送りつけた容疑で逮捕される事件があったが、これらは合衆国大統領によって連日のように惹起された悲劇的な国の分断、謀略的挑発のまさにその時期に起こったことは明白だ……トランプはエンタテイメント時代の専横的なデマゴーグであり、憤り、際限ない侮辱、辛辣な批判、日常的虚言などの“道具”を駆使し、大統領執務室のデスクから発信するツイート、各地遊説先の演説などを通じて大気中に有毒ガスを拡散させてきた」

 「今年の中間選挙は、まさにこのようなとてつもない国家的ストレスの雰囲気の中で行われようとしており、彼は国際条約と同盟関係を次々に壊し、労働者の利益より企業の便宜を優先させるといった行為への同調者と、それ以外の人々を分断させる一人芝居の主人公を演じている……これはまさに、トランプに関わるレファレンダムであり、自分のよって立つ支持基盤と、少なくとも下院選挙で新たな体制が生まれ、州知事や州議会議員たちの顔ぶれもある程度代わることによってアメリカン・ライフと国民的スピリットの瓦解にブレーキをかけようとする人々との間のコンテストを意味している。2年前の大統領選での『トランプ登場』」は“非常事態”と受け止められ、数千万人の有権者が自宅にとどまり投票所に行かなかった。しかし今年の選挙は接戦が伝えられるだけに、その意義をいくら重視してもし過ぎることはない」

 10月25日付けのUSAトゥデー紙も「中間選挙は候補リストに載っていない男(トランプ)の選挙」との見出しで最新の世論調査結果に触れ「有権者のうちの過半数が、トランプ大統領に対し「支持」あるいは「不支持」のどちらかのメッセージを送る選挙、と位置付けている」と報じた。
 
 中間選挙はもともと、下院議員全員(435人)と上院議員(100人)の約3分の1のほか、50州の州知事の多くと州議会議員らが改選される選挙であり、行政府の長である大統領自身の執務実績が直接的に問われるものではない。ただ、議会における所属政党の議員数の増減によって、2年後の大統領選の動向に大きく影響をあたえることはたしかだ。

 ところが今回は、上下両院ともに多数を制する共和党が政権与党として現体制を維持できるかどうかがそのまま、トランプ氏の大統領としての信認投票に通じるという、きわめて特異な選挙戦の様相を呈している。

 このため大統領自身もあたかも大統領選本選さながらに、中間選挙をわがことのように真剣に受け止め、とくに終盤になると、内外の重要政治日程もそっちのけで連日のように共和党候補支援のための地方遊説に膨大な時間を費やした。

 ちなみに10月の1カ月間の大統領スケジュールをホワイトハウスの公式サイトで再チェックしたところ、以下のような驚くべき過密スケジュールを各州でこなしていたことがわかった:10/1(テネシー、ミシシッピー)、10/2(ペンシルバニア、テネシー)、10/4(ミネソタ)、10/6(カンザス)、10/8(フロリダ)、10/9(アイオワ、ネブラスカ)、10/10(ペンシルバニア)、10/12(オハイオ)、10/13(オハイオ、ケンタッキー)、10/15(フロリダ、ジョージア)、10/18(モンタナ)、10/19(アリゾナ)、10/20(アリゾナ、ネバダ)、10/22(テキサス)、10/24(ウイスコンシン)、10/26(ノースカロナイナ)、10/27(テキサス、インディアナ、イリノイ)、10/30(ペンシルバニア)、10/31(フロリダ)

 過去の3つの中間選挙(カーター、レーガン、クリントン各政権当時)を取材した経験に照らしても、大統領自らが1カ月の間にこれだけ多くの州をほとんど連日のように訪れ、各地の有権者に現政権への支持を呼びかけたのは、異例中の異例ともいえる。

 しかも、ホワトハウス入りして以来、ふだんはスタッフに命じて公式スケジュールも過密にさせず、平日は毎日3〜4時間はテレビを見たり、得意のツイッターでゆったり自分の時間を過ごすのをよしとし、週末はほとんどバージニア州の自分のゴルフ場でラウンドするのを楽しみとしていた。それが、週末も返上、エアフォース・ワンで地方からホワイトハウスの自邸に戻るのが午後9時すぎになるのもめずらしくないほどのハードワークに様変わりした。

 何が大統領をそうさせたかは、日を見るより明らかだ。

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