テレ東・プロデューサーが語る「テレビサバイバル」

2018年11月16日

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小林史憲 (こばやし・ふみのり)

テレビ東京・プロデューサー

1972年、東京都生まれ。98年、テレビ東京に入社。報道局で警視庁記者クラブ、「ガイアの夜明け」、「カンブリア宮殿」などの番組ディレクター、プロデューサー。北京支局特派員。現在はコンテンツ事業局・海外ビジネス部副部長。ドラマやアニメをプロデュースしながら、海外へのコンテンツ展開を進めている。著書に『テレビに映る中国の97%は嘘である』(講談社)、『騒乱、混乱、波乱、ありえない中国』(集英社)。

iStock / Getty Images Plus / metamorworks

総裁選の裏で『マッドマックス』

 9月20日、自民党総裁選の投開票が行われた。事実上、日本の次の内閣総理大臣が決まる瞬間である。NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビは、投開票が始まった午後1時以降、当然のごとくその様子を生中継で伝えた。

 一方、その時間にテレビ東京が放送したのは、映画『マッドマックス2』だった。『マッドマックス2』は1981年に公開されたオーストラリアの映画だ。主演はメル・ギブソン。大国同士による戦争の後、枯渇した石油の略奪を繰り広げる暴走族たちと元警官であるマックスの戦いを描いたバイオレンスアクションである。

 つまり、その時間に6台のテレビを並べ、各チャンネルに合わせていれば、奇妙な光景が見られたはずだ(関東地区のみ)。6台中5台の画面に映し出されたのは、自民党本部の会場で戦況を見つめる安倍総理と石破元幹事長の顔。一方、1台だけ、7チャンネルに映し出されたのは、荒廃した砂漠の世界で暴れまわるモヒカン頭の暴走族の顔である。

 当日の朝刊のテレビ欄はさらにシュールだ。「自民党総裁選▽決定の瞬間を生中継」(NHK)「6年ぶり因縁対決!安倍VS石破」(日テレ)などの文字が並ぶ中、テレ東はこうだ。「ド迫力の大ヒット作/世界崩壊!壮絶バトル」……。

 この様子はさっそくSNSなどで話題となった。概ね、こんなコメントである。

 「さすが安定のテレ東」。

 「さすが」というから一見褒めているように見えるが、内心は揶揄しているのがよく伝わって来るコメントだ。

 このネタはBuzzFeedによってニュース記事としても配信された。見出しがすごい。 

・テレ東がまたも独自路線「マッドマックス」放送で安倍首相とまさかのコラボ

 その見出しの下には小さめのフォントでサブタイトルらしきものまで書いてある。

・そこにシビれる!あこがれるゥ!

 こちらもまた、一見褒めているようで揶揄しているのがよくわかる。そもそも、自民党総裁選がニュースであって、テレ東が生中継をしなかったことは別にニュースではないと思うのだが……。

 ちなみに、記事のタイトルにある「まさかのコラボ」というのは、再選が決まった安倍総理が壇上で演説を始めた時、『マッドマックス2』では暴走族の首領も演説を始めたからだという。記事にはこうある。

・「きっとテレ東はこのために『マッドマックス2』を放送したのだ」

 さらにこの記者はご丁寧にテレ東の広報部に取材までしたようだ。

・記者「自民党総裁選ではなく、なぜ通常通り『マッドマックス2』を放送したのか?」 

・広報部「レギュラー番組の変更については、編成状況や緊急性などから総合的に判断しております」

・記者「今回の総裁選に対し、あえてぶつけてきたのか?」

・広報部「そのような意図はありません」

 テレ東では月曜から金曜の午後1時35分から「午後のロードショー」を放送している。『マッドマックス2』も通常通りその枠で放送したに過ぎない。

 戦争、荒廃した砂漠、暴走族を率いる首領とその軍団と戦う男……確かに意味深である。日本の政治状況や総裁選に対して皮肉を込めてあえてぶつけたとしたら、そして安倍総理と暴走族の首領の演説がタイミングよく重なるようにしたとすれば、天才的にセンスがいい!が、残念ながらただの偶然である。

 いずれにしても、このように大きなニュースが起き、各局が横並びで報道している時に、テレ東だけが通常の番組を放送しているというケースは多い。例えば、湾岸戦争開戦時にアニメ『楽しいムーミン一家』を放送。東日本大震災三周年追悼式の最中に映画『エイリアン4』を放送……などなど、ネット上では「テレ東伝説」として語られている。

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