2024年5月8日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2019年3月8日

新卒採用というレールに乗れなかった人たちへの偏見

――手取りで20万円を切るとなると、仮に非正規同士で結婚した場合、妊娠、出産するのは難しいですね。

小林:20~40代の女性の約半数は非正規雇用です。もし妊娠して、つわりが激しくなれば休まなければならないですし、無理に働けば流産や早産につながる可能性がある。非正規同士が結婚した場合、結婚はできても、子どもを持つことは非常に難しいのが現状です。

――非正規で妊娠した場合、どのような生活になるのでしょうか?

小林:派遣労働者の取材をはじめた当初から取材している女性は、派遣社員で妊娠を会社に伝えたところ、「明日から来なくていい」と事実上、解雇されました。妊娠解雇です。彼女は納得がいかず労働組合とともに会社側と争いましたが、会社側は妊娠中の彼女に月100時間の残業を前提に契約満了まで雇うというとんでもない条件を出しました。

 また、彼女が妊娠を派遣先の会社へ伝えた際に、会社は派遣会社に「不良品をとっとと返品したい」と言っていたそうです。当時、派遣労働者の人件費は物品費に計上されることが問題視されたように、人件費率を下げたい企業側は、派遣労働者を雇うことで決算上、人件費が少なくなっているように見せていたのです。

――いわゆる派遣切りには、3年ルールが適用されるようになりましたが、実態はどうなのでしょうか?

小林:2004年に労働者派遣法で一部業務において非正規雇用の上限を3年とし、3年働けば正社員などの直接雇用に転換する、と決まりました(2015年には全業務に拡大)。派遣契約を延長しない場合、1カ月前までに本人に通達しなければなりません。実際に取材をしていると2年9カ月目などで派遣契約を切るというように悪用する企業も見受けられます。同じ年に労働基準法でも非正規は3年が上限になったことも3年ルールを後押ししてしまった。

――最初のお話で有名大学を卒業しても、いまだに非正規で働き続けている女性の話がありました。日本では、経済状況のせいでやむなく学校卒業後非正規雇用だった場合、以後も非正規雇用に甘んじなければならない傾向があります。なぜ正規雇用されないのでしょうか?

小林:ひとつは、多くの人が新卒採用というレールに乗っているにもかかわらず、そのレールに乗れなかったのは能力的に劣るのではないかと企業側が判断するためです。

 もうひとつは、たとえ正規雇用と同じような仕事を任されていても、非正規は「しょせん非正規」で、正規雇用者が20代半ばまでに身に着けているスキルを身に着けていないと企業側が判断する傾向もあります。

 また、バブル経済が崩壊して以降の失われた20年の間に、企業は採用を人材派遣会社にアウトソーシングするようになったことで、企業側に人材を見る目がなくなった点もあるのではないでしょうか。


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