Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年5月12日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。著書に『「目的思考」で学びが変わる 千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦』(ウェッジ)。

本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏ラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

麹町中学校の教育には、徹底して生徒に「目的思考」を持たせるための工夫がなされている。そこには「自ら考え、行動できる人を育てたい」という、校長の信念が貫かれている。

工藤 勇一(くどう・ゆういち):1960年生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県・東京都の公立中学校教諭、新宿区教育委員会を経て、2014年から現職。「教育再生実行会議」など多数の公職を務める。(写真・稲田礼子)

 今の会社や仕事が、1年後にはどうなっているか分からない。変化に強い組織と個人を育てなければならない─。そんな社会の要請に応えるような教育を実践しているのが千代田区立麹町中学校長の工藤勇一だ。生徒たち自らが手がける行事の企画・運営に、その一端が垣間見える。

 例えば2018年5月に開催された体育祭。多くの保護者が訪れる中、観覧エリアはごく一部に限られ、立ち見を続ける人の姿も多く見られた。大型テントも保護者や来賓客は使用できず、生徒以外は立ち入り禁止。徹底的に「生徒ファースト」が貫かれていた。

 対照的だったのは、同年10月に開催された麹中祭(文化祭)だ。会場の体育館には、ステージから最も近い位置に「保護者優先席」が設けられた。入り口に貼り出されたプログラム表には、冒頭から会場入りできなかった保護者のために、実行委員の生徒によって進行中の演目に矢印のマークが表示されるという配慮も。

 同じ学校の行事なのに、なぜこれほどまでに性格が違うのか。その理由は、企画・運営にあたって工藤が生徒たちに示した「目的」にある。体育祭は「自分たちが楽しむこと」、麹中祭は「観客を楽しませること」。それ以外のこまかな指示はない。生徒たちは開催理念ともいえる最上位の目的を理解し、共有する。そして「目的に合致しているか」を考え、時に激しく議論し、判断するのだ。

 同じく18年には、従来の当たり前だった「定期テスト」が廃止された。「自律して、自分で学ぶ習慣を身につける」という目的に向けた改革だ。代わりに再挑戦も可能な「単元テスト」を高頻度で実施し、成績評価には一切影響しない「実力テスト」の回数を増やした。やらされ勉強につながる宿題も廃止。「本来の勉強の意味とは、生徒たちが『分かる』『分からない』を自覚し、分からないことを分かるようにすること」と工藤は指摘する。数々の改革は、そうした目的に向けて生み出された手段だ。

 工藤は生徒へ「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで考え、実行する力を身につけてほしい」と語りかける。このメッセージは、大人たちにとって耳の痛い内容かもしれない。慣例だから、誰かの顔を立てなければいけないから……。そうして目的を見失い、自分たちで考えることを放棄した先に生まれるのが、変化を恐れて前に進めない組織や個人なのではないか。

 生徒たちが身につけた目的思考というツールは、そんな現実を打ち破る「生きるための力」と言えるだろう。

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