コカイン世界最大生産地コロンビアの現場から

2019年5月21日

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柴田大輔 (しばた・だいすけ)

フォトジャーナリスト

日本芸術専門学校卒業後、フリーランスのフォトジャーナリストとして取材・報告活動を始める。2004年から1年間、ラテンアメリカ13か国を旅し、現地で出会った多様な風土と人々の生活に惹かれ、コロンビアを中心にメキシコ、ニカラグア、ペルーで住民運動や日常生活を取材し続けている。

「私たちはここで生きていくしかないのです」

 マリーさんはこれまで、暴力と身近なところで生きてきた。

 2017年、FARCと政府が和平合意を結び52年続いた両者の争いが終わったものの、トゥマコでは今も麻薬組織同士の抗争が続く。治安が悪化するトゥマコから安全な土地へ移住する人は多い。マリーさんも、県の経済的中心である県都パスト市に避難したことがある。しかし、そこでの暮らしに苦しみ彼女は再びトゥマコに戻っている。パストは標高2000メートルを超える場所にあり、彼女が育った熱帯の気候とは違い平均気温は17度前後、夜は10度を切るほどに冷え込む。さらに、アフリカ系住民である彼女には食事など生活習慣の違いも大きかった。何より一番の問題は、仕事を得られなかったことだ。パストも景気がいいとはいえず、収入がなく慣れない環境での生活に彼女は追い込まれていった。そして、わずかだが農地があり親族がいるトゥマコに戻ってきたのだった。

 縁のない土地で、個人で生活を立てていくことは容易ではない。トゥマコに残るのは、他に行き場を見つけることができなかった人でもあるのだった。

 マリーさんが呟く。

 「私は息子を失い、兄弟やその他の親戚など、あまりにも多くの家族を殺されました。周りの女性たちも同様です。それでも、私たちはこの土地で生きていくしかないのです」

 彼女は今、同じ境遇に置かれる地域住民の中心に立ち、紛争被害に対する補償を政府に要求するなどの活動を続けている。

  
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