2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年6月22日

 匿名で無責任な回答になりがちなネット調査とはいえ、「医者殺し支持」の多さは、中国での医師の信用失墜をはっきりと示していた。

 衛生省の統計によれば、2006年の医療トラブルは1万248件、09年は1万6448件、10年は1万7243件と年々増加。

 医学界のサイト、丁香園の調査によると、00年から現在までの12年間に患者に殺された医師は公表されただけで14人に上るという。

社会派ドラマが警鐘

 ドラマ「心術」は、上海を思わせる架空の大都市の最も先進的な総合病院を舞台として、医療現場を描く。診察を待つ患者の長蛇の列、薬漬け・検査漬けなど病院の営利主義、患者から医師への「紅包」(リベート)、コネ社会の医学界…。若い医師と女性看護士のロマンスもあるコメディードラマだが、医療不信の現実は生々しい。

 5月末、原作者の六六さん(37)に上海市の自宅でインタビューした。3年前、六六さんが住宅バブルを描いた小説「蝸居」(カタツムリの家)=狭い住宅の意=がドラマ化され、大ヒットしたが、「心術」は、それにもまして好評だ。

 「今の中国の人たちは、お互いを信頼することができなくなった。社会は私たちが求める公正さや正義から遠く離れてしまった。そんな現実を描きたかった」

医師の地位、収入低く

 「心術」の中に「なぜ医科大学なんか受けたんだ?」というせりふがある。中国では医師の社会的な地位も収入も、日本ほどは高くないのだ。最も優秀な理数系の高校生は医学部ではなく、名門の清華大学、北京大学の理工系学部を受験することが多い。医師より社会的な地位が高く、安定した高級官僚を目指すのだ。

 胡錦濤国家主席は清華大で水利工学を学んだ。中国の指導者には胡氏のように名門大学の理工系出身のテクノクラートが多い。

医師の質の向上も課題

 中国の医療の第一の問題は、質の高い医師と病院の不足だ。医師数は年々増やしてはいるものの、12年の衛生統計によると、11年の医師数は約202万人(漢方医を含む)。1000人当たりの医師数は1.5人。日本の2.2人、経済協力開発機構(OECD)平均3.1人と比べてかなり低い。


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