チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年8月22日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

チベット問題のポイントと深刻さを物語る「数」

 46件の焼身のうち、チベット自治区内で発生したと伝えられているのは4件である。ほかはすべて、今日、四川、青海、甘粛と称される省のチベット人居住地域で発生している。

 今日、日本人の多くが、「チベット」と聞いて思い浮かべる「チベット自治区」はあくまで、中国共産党が定めた「自治区」に過ぎず、ダライ・ラマ14世法王が率いてきたチベット亡命政府側にとっての伝統的な「チベット」とは、この自治区に、四川省の西半分と青海省の全域、雲南省、陝西省、甘粛省の一部を加えた、チベット高原全体を指している。したがって、亡命政府はこの全域が「本来のチベット」であり、自らの「国土」だったと主張しているが、北京は近年それを無視し続けている。

 中国共産党は、チベット人がカムやアムドと呼んだ東チベット地域を、四川省や青海省に組み入れ、チベット古来の地名を中国式に改名することで、あたかもそこがもともと「中国」であったかのように見せてきた。しかし、60年が過ぎたいまになっても、この地域でチベット人による命懸けの「反抗」が後を絶たないという現実を見れば、共産党による地図の上での「中国化」政策はまったく不成功だったことが明白である。

 ただし、ここで気をつけるべきは、ラサ周辺での焼身が伝えられないことが、ラサは平穏だということを意味しないということである。これには2つのネガティブな状況が考えられる。第一は、中国当局が、チベットの中心で世界の目が向きやすいラサでだけは焼身を起こさせまいとして、夥しい数の警官等を配置し、異常な警戒態勢を敷いているという事情がある。あえて変な言い方をすれば、ラサは、焼身を起こそうにも起こせないほど緊迫した状況にあるということなのだ。

 第二に、実はチベット自治区内で焼身は起きているが、外国メディアや諜報機関のネットワークから漏れているために、外へ伝わっていない可能性がある、ということだ。いずれにせよ、当コラムで以前書いた「チベットはいま巨大な監獄状態」という状況に変わりはないものと見られる。

半世紀以上、主なきポタラ宮に「歴史」モニュメント?

 そんなチベット、そんなラサに関する、困ったニュースが伝わってきた。ラサの中心部に「大型テーマパーク建設」というものである。投資額は300億元(約3700億円)、ダライ・ラマのかつての住まいであるポタラ宮とラサ川をはさんだ向かい側の約8平方キロの敷地に、3年以内の完成を目指すという。肝心のテーマは、7世紀の吐蕃(当時のチベット)王に嫁いだ唐王朝の皇女、文成公主の物語。「チベットと中国との密接な歴史的関係を訴えるもの」だそうだ。

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