2024年4月27日(土)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年11月11日

 空中戦の深化では、ソーシャルメディアによるナレーティブ誘導として、陣営主要スタッフがスピーチライター代筆なしに随時ツイートしたほか、動画サイトで本編前に挿入する「プリロール広告」重視の戦略だった。いくら激戦州にしか流さないとはいえ、あまりに視聴対象がだだっ広いテレビ広告よりも、インターネットの動画前広告のほうが、対象が絞り込みやすいので、地上戦の戸別訪問的な空中戦が展開できる。

 「激戦州についてはあまりにも多くのことが想像可能だった」と民主党専門家は異口同音に語る。なにしろ、オハイオ州だけで25から30の別々の世論調査結果が行われていた。「それらの平均をとると3%から4%オバマが勝っていて、9つの主要激戦州で、ロムニーが文句なしに上回り続けていたのはノースカロライナだけ。ギャラップでも4ポイントほどオバマ優勢で、ピューリサーチもオバマ堅調」というのが、選挙当日、電話で話したある民主党系ベテラン戦略家の見立てで、筆者も概ねこれに同意した。

 オハイオ、ニューハンプシャー、コロラド、フリロリダ、バージニア、すべてで若干オバマ優勢で、フロリダ、バージニア、オハイオをすべて落とせば、その時点でロムニーに勝ち目はない、とされていた。

 前述のように、共和党側にはごく一部オバマ再選を予測する専門家もいたものの、大半がロムニー勝利を予測していたのに対し、民主党系の予測では「オバマ勝利」でほぼ統一していた。NDNのサイモン・ローゼンバーグは、「51%対48%の一般投票で、332人の選挙人獲得でオバマが勝利」と予測。激戦州では「ニューハンプシャー、バージニア、フロリダのみでロムニーが勝利の可能性もある」と予測していた。

 ローゼンバーグは結果を見事に予見した。オバマがフロリダ州を取れば、合計332人の選挙人獲得となる。ローゼンバーグの予想は完全な的中である。政治専門紙「ザ・ヒル(The Hill)」は、ローゼンバーグを2012年選挙予測コンテストの優勝者と報道している(The Hill, November, 7 2012)。2008年に続き、同紙での連続優勝となった。

 しかし、激戦州についての結果は、それ以上のものとなった。最重要激戦州オハイオ、フロリダ、バージニア3州の結果が出ないうちに、他の州の趨勢だけでオバマ優位ができあがってしまい、3州のうちオハイオが決まった段階で、勝利が確実になった。

ハリケーン・サンディの選挙への影響をめぐる論争

 もう1つ存在するのが、ハリケーン・サンディの効果をどう見るかという論争である。共和党側には「ロムニーの勝機がハリケーンで奪われた」という、自然災害のアクシデントにやられたという議論が多い。「より直接的に私の予測間違いの原因は、ハリケーン・サンディとニュージャージー州知事クリス・クリスティのオバマとの超党派の行進の影響を考慮に入れなかったことだ」とディック・モリスも述べる。「ハリケーンがロムニーの1回目のTV討論以来の"モーメンタム"を止めてしまった。ハリケーンこそが"オクトーバー・サプライズ"だった」のだと。


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