2024年4月27日(土)

都会に根を張る一店舗主義

2014年12月17日

メニューを読みこなし、
店を使いこなすほどに自在の選択がある店

 『菊谷』のおしながきは、ちょっと変わっている。

 江戸の頃から、そば屋は酒を楽しむ場所だった。時代劇でも客は昼間からちびちびやっている。江戸時代には、客がある程度の数、集まってからそばを打ったから、それまで客は酒を飲んで待つというのが習慣だったという。そんな原点に戻って、この店は、お酒もうんと楽しめる店にしたいというので、おしながきには、小さな文字でみっちり各地の酒のリストが並ぶ。

春霞 一本蔵 辛口旨酒 560円
奈良萬 純米 優しい飲みやすい味 福島県 830円
蔵太鼓 純米生原酒 超辛口シャープ  福島県 430円
日置桜 純米 辛口芳醇 鳥取県 990円
菊姫 山廃純米 濃厚旨口 石川県 480円

 初心者にも優しい一言解説つき。常に30種~40種の酒を選べる。もちろん、ビールもあるし、栃木県のココファームや、北海道のドメイヌタカヒコなど、こだわりの国産ワインも白を中心に並ぶ。

「菊谷」店主の菊谷修さん。今は厨房とフロアを2人のお弟子さんが手伝う。混みあうことが多い昼は、ご両親も手伝いに入る

 「『こいけ』時代の兄弟子の親戚が、日暮里で『野田屋』という酒屋をやっていて、そこが国産ワインを揃えていた。日本酒も2合で注文できるようにしたのは、たとえば4~5人で利き酒しようと思った時、一種がだいたい2合あれば、その人数で楽しめる。そうやって4~5種類、飲み比べしても、各自が別のものを注文するより、少し安くなるしくみです」

 とあれば、お子様お断りの店のようだが、ところがどっこい。割安なお子様そばも各種そろう。

 「子供にも好きになってもらわないと、そば屋の未来はないと思うんです。この辺は、ちょっとぐらい子供が騒いでも、子供に構ってくれるお客さんが多いですし」

 自分が本当に食べたいものを揃え、意心地のよい店にする、という点において、物腰の柔らかな菊谷さんは妥協しない。「一度、食べておいしいと思うものに出合ったら戻せないですよね」というのは、つゆの素材の話だ。陶器の甕で週に3度ほど仕込む。利尻昆布と干ししいたけを水に浸し、最低一晩以上寝かし、干ししいたけを引き上げてゆっくり60度まで加温して、80度で昆布もとる。その後、鰹節を加える。


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