2024年4月26日(金)

都会に根を張る一店舗主義

2014年12月17日

 自由自在な注文ができるのは、個人店の最大の魅力である。人間力がすべてだから、マニュアル主導のチェーン店には、なかなか真似ができない。しかし旧態依然たる寿司屋やそば屋は、融通が利かない店も多く、女性一人、子供連れには敷居が高い。

 しかし、『菊谷』は、大人が楽しく飲めるそば屋でありながら、どんな客にも間口が広い。

 「うちのメニューは、読み込んで攻略法を手にすると、案外と安く、いろんなものを摘まめて飲めるんですよ。客単価を上げることばかり考えるより、お会計の時には、意外と安かったね、と言われるような店でありたいと思うんです」

 地元巣鴨を、“おばあちゃんたちの原宿”というだけでなく、幅広い世代と海外までもおいしい町として認知されたいとも言い、焼き鳥『もん家』、ラーメンの『蔦』、うなぎの『にしむら』、大塚駅方面の生ハムとワインの『29ロティ』、居酒屋『こなから』と、近所の店をあれこれ教えてくれた。菊谷さん自身は、秩父の畑に通い出して4年め、今後は、どんなことを目指しているのだろう。

 「そうですね。うまい魚のアテ、サバの燻製のようなオリジナルなもの、あの店に行くとあれがつまめるな、というようなものを一年に一個くらいずつゆっくり増やしていければと思っています。それと、そばは新そばが一番、と思い込んでいる人が多いですが、たとえば2年寝かせたそばのおいしさ、といったものを伝えていきたいですね。うちでは、真空にして低温で寝かせています。昔は、夏を超えると風味は落ちていたでしょうが、今は管理の技術が格段に向上した。そばは不作と豊作の差が大きな作物ですから、そうした技術を手にすると農家の後継者問題の解消にもつながると思うんです。そばは寝かせると、味わいだけでなく、香りも深くなる。そういう意味で、そばの可能性は無限大です」

 こだわっていながら、決して押しつけない。どんな世代にも、そば初心者でも暖かく受け入れてくれる。そんな主人の人柄がにじむそば屋である。

  
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