オトナの教養 週末の一冊

2015年2月27日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 慣れ親しんだ「現実」が崩壊するような危機に直面したとき、脳はおせっかいともいえる適応力を発揮して、「現実」を立て直そうとあれやこれやの手を打つのである。

 臨死体験やドッペルゲンガー(自分自身の幻)のような、一見、説明不能と思われる現象さえも、サックスは幻覚のひとつ(つまりは、脳のおせっかいのなせるわざ)として整然と説明してくれる。これには、霧が晴れるような気持ちがした。

幻覚は「正の現象」

 <幻覚現象は人間の脳ができたときから起こっていると思われるが、それに対する私たちの理解は、この二~三〇年で大幅に進んだ。この新たな知識はとくに、脳を画像化して、人が幻覚を起こしているあいだの脳の電気的活動や代謝活動をモニターできるようになって得られたものだ。>

 たとえば、顔の認識に関与する右下側頭葉が異常に活性化されると、顔の幻覚を見るようになることがある。脳の反対側には、本来なら読字に使われる領域があるが、ここが異常に刺激されると、文字や擬似語の幻覚が生まれる可能性がある、という。

 こうしたことから、従来の神経学の基礎となっている、事故や病気による障害や喪失が「負の症状」なのに対して、幻覚は「正の現象」であると、サックスはみる。幻覚現象の研究は、「脳の機能に関して、より直接的な洞察を可能にする」新たなフロンティアといえるかもしれない。

 幻覚が明らかにする脳の驚くべき知覚の世界を、本書でとくとご覧あれ。

  
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