世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月12日

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 僅かな調整で米国の優位を回復できるとするクリントンが正しいのか。イラン核合意の破棄など米国の力の一方的使用の回復を主張する共和党が正しいのか。 

 技術や通信の発達が国家や同盟を分散化させ力の展開は今まで通りにはいかないという21世紀の現実に適した米の力のビジョンとは何なのか。これこそ大統領選挙ですべき外交議論だ。ベトナム、イラク、アラブの春のように、ある時点で正しいと思ったことがとんでもない間違いになりうる。グローバル化した経済は、ゼロサムゲームではなく、中国の利益は米の利益でもある時代だ。

 次期大統領は不安定になった世界システムを強固にしなければならない。米国の力の新しい創造的な適用の必要性は、アチソン等が直面した問題と違わない。今日、我々は不毛な、しばしば不正直な外交議論をしている。これは変えるべきだ。クリントンの演説はその契機になるかもしれない、と述べています。

出典:David Ignatius,‘The critical foreign policy debate that America needs to have’(Washington Post, September 10, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/giving-us-foreign-policy-the-importance-it-deserves/2015/09/10/bce8e854-57d9-11e5-8bb1-b488d231bba2_story.html

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 このコラムは、重要な問題提起をしています。イグネイシャスは、米の新しい力のビジョンとは何なのかについて、正直な議論をすべきだと主張しています。党利党略のための議論ではなく、世界の変化とジレンマを踏まえた真面目な外交議論が必要だということでしょう。ただ、最終的に重要なことはこの問題への答えです。世界の変わったことと変わらないことを厳しく理解し、理念を共有する国が米の指導力を支え、時には正し、時には内向きになるのを防ぎ、非国家プレイヤーの脅威と今にあっては中国とロシアの挑戦に対処していくことによって秩序を保つ他ないのではないでしょうか。イグネイシャスが答えを示していないのは残念です。

 イグネイシャスが言及している、9月9日のクリントン政策演説は、イラン核合意に関するものですが、その中で、今後の大統領選の外交議論について、恐怖ではなく事実に基づき議論をしよう、意見の違いがあるのは認めるが自分に同意しない人を愛国主義や忠誠心がないと誹謗することはやめるべきだ、そして何よりも海外での米の信頼を傷つけることはやめるべきだ、米国は一つのチームで動くべきだ、と強調しています。

 米大統領選挙戦は、党内の競争と党の間の競争という二つの競争から成り立っています。今は主として党内競争の段階である。共和党内の競争ではいきおいオバマ批判が高ぶり、党内保守派の支持を得るため過激な発言が出やすく、さらに、今年はトランプの激しい乱暴な議論が影響しています。クリントンの発言は、そのような現状を踏まえ真面目な外交議論の必要性を訴えるものです。

 イグネイシャスの指摘は、我が国にも当てはまります。これまでの安保法制等の外交議論を見ると、安全保障環境の激化や我が国の国際社会での立ち位置等の観点からの議論よりも政党的、政局的な議論が多すぎると感じます。また、日本のメディアではイグネイシャスのような警鐘を鳴らす意見も目立ちません。我が国でも事実に基づく正直な外交議論が必要とされています。

  
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