オトナの教養 週末の一冊

2015年10月11日

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足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

 「原発や放射能は聞き飽きた、と言われます。でも私は内部被曝のことなど何も知らなかった。だからまず、平時の作業を知ろうと原発で働いた人を訪ね歩きました」

 指定された駅前の店。化粧っ気のまったくない寺尾さんは訥々と話した。

 シンガーソングライター兼エッセイスト。7枚のアルバムをもつ売れっ子歌手だ。だが4冊の著作のうち2冊が各10年を費やした戦争関連のノンフィクションであるように、華やいだ空気は感じない。約3年半かけて8人の原発労働者や元労働者に話を聞いた本書も、「兼業」レベルではない重い内容だ。

 「社会問題への関心? 高2の時、荒川の河畔で、朝鮮人の虐殺や遺体のことを関係者から聞いた時でしょうか」

『原発労働者』(寺尾紗穂、講談社)

 関東大震災で朝鮮人虐殺があった話は小学生時代に母親から聞いていた。子どもの頃のその衝撃を現場で確認したわけだが、歴史の裏側への関心は自然に形成されたという。

 原発労働者との繋がりは本書序章に記してある。大学生当時、山谷の夏祭りを通して1人の路上生活者と知り合い、彼の死後、樋口健二著『闇に消される原発被曝者』を読んで、原発労働者の中にドヤ街出身の日雇い・路上生活者が多数いることを知ったのだ。

 「樋口さんや堀江邦夫さんたちの現場リポートは30年以上も前。今はどうなっているのか、と気になり、取材相手を探し始めたんです」

 思い立つと寺尾さんはすぐ実行する。現在の労働者は地元出身の方が目立つが、放射線量の軽視や無視、データの日常的改変、その場しのぎの補修、使い捨ての末端作業員など、「クリーンエネルギーを作るためのダークな労働現場」の実態は変わらない。

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