WEDGE REPORT

2015年11月11日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 まず、6月に東京海上日動火災保険が米国のHCCインシュアランス・ホールディングスを9413億円で買収した。金額では伊藤忠のCITICグループへの出資に次いで第2位の規模だった。7月に明治安田生命が米国のスタンコープ・フィナンシャル・グループを6284億円で買収すると、8月には住友生命が米国のシメトラファイナンシャルを4703億円で買収した。9月には三井住友海上火災が英国のアムリンを6420億円で買収、さらに10月には日本生命がオーストラリア銀行の孫会社を2040億円で買収するなど、毎月、買収案件が起きた。

 この流れを見ると、よそがM&Aをしているから、わが社もやらなければという思いが先行して買収に突っ走った印象がある。買収する前に、買収後にいかにシナジー効果を発揮できるかを十分時間をかけて検討したかどうか。焦るあまりに高い買い物をしたのではないか。日本の生保会社は1980年代の後半に、われもわれもと米国の不動産を買い漁ったことがあった。この時買った多くの不動産は、買値より安く売却することになったケース多いといわれる。今回の企業買収ラッシュが不動産買いの二の舞にならなければよいのだが。

買収後が課題

 海外の企業買収はマスコミなどに華々しく伝えられるが、買収が成功するかどうかは、買収後に被買収企業との統合をいかにスムーズにできるかどうかにかかっている。2007年に日本企業による海外企業買収の最高額となる2兆2500億円で英国ギャラハー社を買収したJTの新貝康司副社長は「買収が成功するかどうかは買収後の被買収会社との統合がうまくいくかどうかだ」と指摘する。特に国内市場が中心だった内需関連企業がいきなり海外企業を買収した時が要注意だ。

 かつて2006年に日本板硝子が英国の世界第3位のガラス会社ピルキントンを買収した時は、「小(日本板硝子)が大(ピルキントン)を飲んだ」としてもてはやされたが、その後リーマンショックや欧州債務危機が重なったこともあって、経営上の内紛が起きてこの買収はM&A史に残る失敗例となった。また最近では住宅設備大手のLIXILグループが買収した会社の子会社の隠れ債務が発覚して大きな損失額の計上を迫られるなど、M&Aは一つ間違えると大きな負のリスクを抱え込むことになる。

 日本企業は国内市場に限界があることに気づき、この10年は海外に積極的に出ていくようにはなったが、まだ経験が十分ではない。特に海外の企業をマネイジするだけの経営能力が育ってないのが現実だ。このため、被買収会社に権限を委譲し過ぎると放漫経営を見過ごすことになり、逆に警戒して日本企業が箸の上げ下げまで被買収企業の経営に介入すると、買収された企業がやる気をなくしてしまう。日本人と考え方が異なる外国人経営者をしっかりグリップしながらある程度までは任せる、この兼ね合いが難しいといわれている。外国企業を買収した企業は、経営の統合を短期間に行ってシナジー効果を出せるかどうかが問われている。

  
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