2024年4月27日(土)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年11月19日

 そして、年長児たちは年少児が入園してくる前に「自分たちでできることはないか」を考え、行動として表現していく。そのひとつが毎年恒例となった「積み木磨き」だ。ささくれなどで新入園児がけがをしないよう一所懸命磨く。さらに、砂場が固くなっていることを見つけると、砂場の砂をほぐしてやわらかくし、砂場道具もきれいに洗っておく。

「子どもの日集会」で、年長児の作ったこいのぼりをくぐる年少児たち。年長さんの優しさが、年少さんの「相手を思いやる気持ち」を育てる

 これだけではない。毎朝そばにいて遊んであげる「新入生の朝の世話係」、冒頭で紹介した「新入園児を迎える会」での風車のプレゼント、さらには「子どもの日集会」では、大きなこいのぼりを年長児がつくり、その中を年少児にくぐらせてあげる・・・。このような行動を通じて、園児たちは「人と心を通い合わせる原体験」(密着レポート(6)を参照)を積み重ねていくのである。

 入園早々に、これほどの愛情を注がれた子どもたちは、どんな気持ちになるのだろう?そして、どのように育っていくのであろうか?

 「入園当時の不安だった気持ちやお母さんと離れるのが辛かったことなど、子どもたちは良く覚えています。そして、そんなときお姉さん、お兄さん(年長児)がいろいろ関わってくれた事もしっかり覚えています。そして『やってもらって嬉しかったこと』が具体的に思い出されます。自分たちも新入園児の小さな子どもたちの気持ちが分かるから、泣かないようにしてやろう、不安がらないようにしてやろうという気持ちが年長児たちの心の中に起きて来るのです。そして、そのような気持ちで、新入の年少児に関わりますので、年少児たちがどんな理不尽なことをしても『今はまだわからないから・・・』と相手の気持ちを慮って年長児として対応をしていきます」(天野園長)

 つまり、入園したばかりの不安定な時期に優しくしてもらった経験こそが、「優しさ」や「人の痛みをわかる心」を育むベースとなっているのである。

 3歳児たちがこの時期の意味を知るのは先のことだが、あふれるほどの「優しさ」で始まった新しい日々は、心の奥底に染みついて一生の宝物になる。

※次回の更新は、11月26日(木)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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