2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年6月7日


論説の主張は、ロシアが冷戦時代のような悪質なデマ流布作戦を強化しているので、米国もそれに対抗する態勢を整備するべし、ということに尽きます。冷戦終了後、米国は広報機関のUSIA(文化情報局)を国務省に統合整理、対ソ連向けラジオ放送(諸国語で行われ、当時のソ連国民にとっては「本当のニュース」を知るための大きなよすがであった)を縮小する等、大幅な予算カットを行いましたが、米ロ関係が悪化した今、右予算の再拡充が必要である、ということです。

ウソは大きければ大きいほど人々が信ずる

 敵陣にデマを流布して攪乱するのは、日本の戦国時代も含め、古来から行われていることです。現代のデマ戦法はナチのゲッベルス宣伝大臣が確立し(「ウソは大きければ大きいほど人々が信ずる」、「ウソも言い続けていると人々は信ずる」等)、ソ連、中国、北朝鮮が磨きをかけてきました。プーチン大統領は、「NATOの拡大等にロシアは正面から対抗する力がないので、『非対称的な』手段で対抗する」趣旨の発言をしており、論説の指摘するロシアの宣伝戦強化はこの発言を実行したものです。

 論説は、西側の「自由なマスコミ」が近来、力を失ったため、ロシアの宣伝戦に対抗できないでいると主張しています。西側マスコミの財政基盤が弱化し、記者に調査、検証している余裕がなくなっているのは事実でしょうが、欧米マスコミのほとんどは、以前から、ソ連、中国、日本等については真実を探求するよりは決めつけに等しい論法で事足れりとしてきました。これら欧米マスコミの力の低下は、資力の低下によると言うより、インターネット、SNSによって、他の情報が流布するようになったことによります。

 論説は、西側のマスコミの力の低下を、政府予算の拡充で補うことを求めていますが、これは、広報政策の領域を超え、諜報・工作の領域の話です。全体主義的諸国による宣伝活動に、政府が対抗するというのは、自らを全体主義の地位に落とすものとしか見えません。日本の対ロ政策においては、無用の話でしょう。

 ロシアや中国による宣伝が功を奏するのは、西側の経済が回復せず、格差が拡大し続けているため、国民が自国政府に不信感を抱いていることも大きいです。景気回復と格差是正によるソフト・パワーの回復こそが、ロシアや中国による幼稚な宣伝を徒労にするための最良の手段です。

■修正履歴
1ページ3段落内「昨年末、シリア難民がドイツの少女を暴行したとされる件がその実例である」を、出典記事に基づき以下のように修正致しました。「シリア難民がロシアの少女を暴行したとされる件についての、ロシアのプロパガンダがその実例である」

  
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