2024年4月27日(土)

対談

2016年12月8日

飯田:なるほど。経済学でも幸福度や満足度へはさまざまなアプローチを用いて分析してきましたが、このままでは「人工知能の発達で消える仕事」の筆頭は計量経済学者ということになりそうです(笑)。

矢野:あらゆる仕事が機械化やコンピューターによって影響を受けましたよね。同じように、あらゆる仕事はAIの影響を受けると思います。そこに「消える/消えない」と線引きする議論自体が、私は不毛だと思っています。

 たとえば交通ICカードが生まれて、改札係の仕事は機械に置き換わりました。でもそういう現象は何百年もの間ずっと起きてきたことで、特別なことではありません。人間とAIをことさらに比べる発想は不自然で、自動車とウサイン・ボルトを比べたりはしないですよね。もちろん自動車の方が早いに決まっていますが、ボルトさんの立派さも変わらない。自動運転の発達もまた、一流レーサーの価値を失わせることはないでしょう。

 たとえば検索エンジンは、まさにAIの塊です。でもあれは検索だけに特化した汎用性のないAIです。知識の量や幅で検索エンジンと戦う人はいないですよね。

飯田:そりゃあ、そうですね。戦う意味もありません。

矢野:AIはあらゆる職業に影響を与えるでしょう。なくなってしまう職業もあるかもしれません。でもそれ以上に新たな職業を増やすと思いますし、AIはあくまでも人の競争相手ではなくて、人間が情報を幅広く得て活用するための道具になると思います。「人間対機械」という表現は間違いで、現実を擬人化して見てしまっています。

 『機械との競争』という本を書いたエリック・ブリニョルフソンはかつての研究仲間なのですが、この本のタイトルがイメージを固定化してしまったのかも知れません。ですが、実際には人間と人間の戦いなんです。

飯田:たしかに、『機械との競争』というタイトルからうけるイメージは強いですね。一方で、新しい技術が向上すると、仕事が消えるのではなく質的な意味で仕事が変わることがある。同じ職業でも、かつての時計職人と今の時計職人はやっている仕事がまるで違うでしょう。


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