世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月13日

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 3月11日付英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、ロシアが西バルカンを不安定にし自国の勢力圏に取り込む工作を進めているので、EUと米国はこれに対応すべきであると述べています。その要旨は次の通りです。

(iStock)

 ウクライナの後、ロシアが挑戦を試みているのは、バルト諸国ではなく、バルカン諸国である。

 1990年代の旧ユーゴ紛争終結後、西バルカン(5つの旧ユーゴスラビアの諸国とアルバニア)の安定を支えて来た要素は2つある。1つは遠い将来のことかも知れないがEU加盟の展望である。この展望が民主主義化の改革を促し、いずれバルカン諸国民の間の和解を不動のものにするとの希望を与えて来た。もう1つは米国の支持、およびもし紛争が再燃する場合には米国あるいはNATOが介入するであろうとの想定であった。

 しかし、債務問題、難民、Brexit、ポピュリズムの台頭という危機のためにEU拡大は死んだ。一方、トランプ大統領は欧州の端っこには最小限の関心しかないと思われる。このことが、EUと米国の影響力を押し戻す隙をロシアに与えることになっている。ロシアは正教会のスラブ民族との文化的繋がりを利用している。

 バルカンではどこであろうと騒ぎが起こると、その後ろにロシアの姿が見える。昨年10月のモンテネグロにおけるクーデタ騒ぎは、当初セルビアのナショナリストの仕業と思われたが、ロシアの情報機関が同国のNATO加盟を阻害するために仕組んだものだという証拠がある。先月、セルビアからコソボ国境に送られた列車の側面には「コソボはセルビアのもの」と21カ国語で書かれていたが、この列車はロシアで作られた。マケドニアの政治的対立を巡ってはロシアとEUは相対立する関係にあるが、長年の親EUの大物であるニコラ・グリュエフスキはロシアに傾いているらしい。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、ロシアは独立のための住民投票を求めるスルプスカのミロラッド・ドディック大統領を支援している。

 ロシアのプロパガンダと特殊部隊による妨害を防ぐ最善の方法は、この地域の心を掴むことにEUと米国がコミットし続けることである。トランプ自身の見解は兎も角、平和な欧州の重要性を理解する政府高官が任命されるなら、EUには米国の関与を繋ぎとめるチャンスがある。

 貿易、援助、投資の面でEUのバルカンへの影響力はロシアを圧倒する。バルカンからの移民は殆ど全て欧州を目指す。EUには吸引力がある。しかし、更なるEUの関与が必要である。それには、情勢の綿密な把握、ロシアの情報工作への対抗、バルカンの問題を真剣に考えていることを保証するための欧州の首脳・高官による訪問がある。このための政治的意思が必要であり、それなくしては、欧州の最も問題の多い一角は暗い過去に逆戻りする危険がある。それは欧州全体にとって危険である。

出 典:Financial Times ‘Europe and the US face a challenge in the Balkans’ (March 11, 2017)
https://www.ft.com/content/ce3bd714-058a-11e7-ace0-1ce02ef0def9

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