「一括更新」でさらに拓けるCO2フリー電源:水力の未来
それからの数年間で、J-POWERは佐久間で得た技術とノウハウをもとに、昭和34年に田子倉発電所(福島県、40万kW)、35年に奥只見発電所(福島県、56万kW)、36年に御母衣発電所(岐阜県、21万5千kW)と、各地で次々に「大規模水力」を完成させていく。その頃の水力発電の役割について、日本経済新聞の記者だった長谷部成美氏は著書『佐久間ダム』にこう記した。
――最近、新しく能率のいい火力発電を四六時中運転して原価を下げ、大貯水池式発電所と組んで、わが国の電力運転方法を経済的に合理的にしようとする傾向のある折から、佐久間発電所の果す役割は大きい――
石炭火力発電は、一定の高出力で運転することが最も効率的である。一方、佐久間発電所のような貯水池式の大規模水力の強みは、時間帯によって大きく変わる電力需要に応じて素早く発電できることにある。したがって、需給バランスの調整に力を発揮する「ピーク電源」として、今もなくてはならない存在なのだ。
ただ同時に、水力発電所の多くは長い年月を働き続けてきたため、最新の設計技術によって設備全体を見直す余地がある。そこでJ-POWERでは今、高経年化した水車や発電機、変圧器などを刷新し、従来と同じ水量でより高い発電効率と出力、信頼性を実現するという、海外にも例のない「一括更新」の整備を進めている。
佐久間のすぐ下流にあり、昭和33年に運転を始めた秋葉第一・第二発電所もその一つ。秋葉第二発電所はすでに工事を終え、今年5月に出力を3万4900kWから3万5300kWに増加して運転を再開した。ちなみに、ここは発電に加え、佐久間発電所の運転によって変化する河川の流量を調整し、またその貯水は地域の農業・工業・水道用水などにも利用されている。
天竜川に限らず、同じ水系にいくつものダムや発電所が連なる例は全国に数多い。水はそこを流れながら、何度も電気を生み出している。まさに再生可能エネルギー。純国産のCO2フリー電源として、水力の役割と可能性はさらに拡がっている。
電気の安定供給を支えるJ-POWERグループ
J-POWER(電源開発株式会社)は1952年9月、全国的な電力不足を解消するため「電源開発促進法」に基づき設立された。その目的を達するため、まず大規模水力発電設備の開発に着手。次いで70年代の石油危機を経てエネルギー源の多様化が求められるなか、海外炭を使用した大規模石炭火力発電所の建設を推進。現在、J-POWERグループでは地熱発電や風力発電など再生可能エネルギーの開発にも力を入れ、全国90カ所以上の発電所(総出力約1800万kW)や送電・変電設備の運用により、エネルギーの安定供給に努めている。
世界最高水準の発電効率を達成した磯子火力発電所。
40年以上の運転実績を誇る鬼首地熱発電所も更新を計画している。
グリーンパワーくずまき風力発電所。J-POWERの国内風力発電設備出力シェアは第2位。