2024年4月26日(金)

ある成年後見人の手記

2017年8月17日

 成年後見制度の改善にせよ、新制度の創設にせよ、司法だけでやるのは望ましくない。司法は裁きの機関だけに、後見人や被後見人を支えようという心遣いに欠けるというのが、痛感したところだ。後見人は人生初めての経験の連続を余儀なくされるのであり、メンタルな面での支援さえ欲しい場面を幾つも私は踏んできた。急増する無力な高齢者を引き受け、社会全体の負担を減じている後見人は敬意をもって接遇されるべきだと思うが、司法は「遣い込み」への警戒を強める一方だ。最高裁のサイトをのぞくとよく分かる。

 このように見てくると、市民サービスという理念を少しは体得している行政、厚生労働省などが前面に出てきて、司法は法の番人、不正監視のウォッチドッグの役割に徹した方が妥当だと思う。「俺様司法」になってはならない。政治家、経営者と労働者の代表、学識経験者、ジャーナリスト、ライフプランナー、医療従事者、宗教家そして後見人体験者など多様な人々が、広範な議論を重ね知恵を出し合って、人の温もりある制度を目指していくべきだと、将来の我が身の在り方を案じつつ切望する。

後見人のあなた、1人で抱え込まないで

 今後、成年後見人になられる方、既になられている方には、心身のリフレッシュに努めることをお勧めする。私は無理に時間を割いてでもスポーツジムに通い、温泉につかり、汗を流して鬱屈した気持ちを転換した。古寺を巡ると、仁王や閻魔像に憤怒の思いを共有していただき、観音や阿弥陀像に心の平穏を取り戻させていただいた。絵画や音楽、映画の鑑賞は、目を別の世界へと広げることで、自分を客観的に見つめ直すことにつながった。

 滝田洋二郎監督のアカデミー賞外国語映画賞受賞映画「おくりびと」には心を慰められた。鑑賞したのは09年春、伯母の松尾由利子の後見人を引き受ける覚悟をした直後だった。主人公である本木雅弘扮する納棺師の、逝った人に対する温かい思い遣りに、少しきれい事だなと思いつつ、大いに勇気づけられ感動した。あふれ出る涙を止められなかった。

由利子(中央)を見舞う姻族たち。左から2番目が筆者、右から2番目が筆者の妻・容子。(2012年5月20日、ハーネス唐崎にて)

 妻・容子に大きく助けてもらったし、従兄弟2夫婦に相談をし、見舞いにも加わってもらったのが良かった。何よりも1人で抱え込んではいけない。周囲の人に助けを求めて巻き込んでいくことを心掛けてほしい。1人で1人を支えるのは無理である。後見人の心が枯れ果ててしまったら、すべておしまいだ。(終わり)
遺産を早く受け取ってくれ!【ある成年後見人の手記(8)】

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PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
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