2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2017年10月20日

 日神山さんたちの案が採用され、リノベーションがスタートした。費用と運営費は、株式発行と自己資金、そして銀行融資から調達でまかなった。実際のリノベは、ワークショップスタイルにして、町の人たちに参加してもらった。そうすることで、「この建物に愛着をもってもらいたい」という思いからだ。

 店舗デザインなどを行う設計事務所の社長を務める日神山さん。職業柄、カーテンを縫うこともあることから、「ミシン」をカフェに置いた。「世界中で布の文化がない地域はありません」と言う日神山さん。「ファブリック(布)で世界とつながり、ミシン(手作り)で地域とつながる」というコンセプトで、近所の女性にワークショップを開いたり、ミシンを持っていないお客さんが使うことができたりするようにした。

1階のカフェに置かれているミシン

「顔が見える」から美味しい

 日神山さんにお話を聞いた10月6日金曜日、カフェでは「世界のおやつ by旅するパティシエ」が開かれていた。カフェのコンセプトは日替わり。月曜から木曜までが「長崎二丁目家庭教室」として、暮らしの知恵や裁縫を町の先生から習い、金曜・土曜が世界中を旅した、鈴木文(あや)さんが“美味しいおやつ”をふるまい、日曜はちょっとドキドキするカラフルなケーキを出す「SUNDAY CAFÉ」が開かれる。こうしたコンセプトが生まれたのは、自分たちでカフェも旅館も運営していたので手が回らなくなり、日常の集客に苦労していたためだった。

 「ゲストハウスに泊まってくれるお客さんだったり、近所のお客さんだったり、勝手に面白いことをしてくれるんです(笑)。現在はカフェを人に任せることで、宿の業務に専念することができ、うまく回っています」

 この日、あやさんが出してくれたのは、ポルトガルとインドのおかし。そのおかしにまつわる、あやさんのお話付きだ。ただおかしを食べるよりも、作った人の思いや、人柄がわかったほうがより美味しくなる。

鈴木文(あや)さん。この日のメニューは、ポルトガルとインドのお菓子の他に、カンボジア生まれのかぼちゃケーキも

 あやさんのおかしを食べながら気が付いた。顔が見えるから楽しくなる――。日神山さんは「シーナと一平」を始めてから、「町に面白い人がいっぱいいることを知った」という。町ですれ違う「面白い誰か」も、知らなければ「ただの人」のまま。顔の見える関係ができれば、「面白い人」になる。「シーナと一平」は、そんな関係作りの場所になっている。町の中に顔が見える人が増えれば、町が面白くなり、町のことがもっと好きになる。

 日神山さんは言う。「いくら場所があっても、人が来ないと意味がない。最初のころは高齢者の方にあまり来てもらえなかったのですが、健康や介護・福祉をテーマにした『長崎二丁目家庭科室』のおかげで解決しつつあります。色々な人がここで楽しんで輝くことで、少しずつ認められていっていると感じます。人が人をつないでいくのですね」。

 カフェには入れ替わり立ち替わりお客さんやスタッフの知り合いなどが来ていて、皆とても楽しそうに各々の時間を過ごしていた。日神山さんの想いは少しずつ形になっているようだ。
 

  
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