「シーナと一平」。つい、俳優の椎名桔平さんの名前が思い浮かぶが、東京都豊島区にある「椎名町」(町名としては残っておらず、現在の南長崎1〜6丁目、目白4・5丁目あたりがかつて椎名町だった)と、20年前に閉店して空き家になったままだった、とんかつ屋「一平」のこと。とんかつ屋「一平」を改装して、1階をカフェに、2階をゲストハウスにリノベーションした。その名前が「シーナと一平」なのである。オープンしたのは2016年3月。
「まちおこし」といえば地方の話と、タカをくくってしまいそうになるが、実は東京でもじわりと衰退が始まっている。例えば、都心の住宅地。歩いてみると、放置された空き地、空き家が意外と多いことがわかる。
そんな中でも東京都豊島区は、「消滅可能性都市」に認定されてしまった。2014年、日本創成会議が発表したもので、20〜39歳の女性が2010年から40年に50%以下に減る自治体を「消滅可能性都市」とした。豊島区といえば、「池袋」を抱える東京のど真ん中。そんな所でも「消滅」の可能性があるというから驚かされる。要するに日本全体が衰退していくということだろう。
町全体をひとつの「宿」として
そんな豊島区の椎名町ではじまったのが「空き家」の再利用。空き家になっていた、とんかつ屋「一平」は、西武池袋線で池袋からひと駅の椎名町駅から3分程度の所にある。池袋西口からでも、石田衣良さんの小説『池袋ウエストゲートパーク』で知られる西口公園を通り抜け、立教大学のレトロなレンガ作りの校舎を横目に見て、山手通りを渡れば、歩いても15分程度で到着する。
再利用のきっかけとなったのは、豊島区で開催された「リノベーションスクール」。ここで、再利用のコンセプトが話し合われた。スクールに参加した「シーナと一平」を運営する「シーナタウン」代表の日神山晃一さん(41)は、「金曜の夜から2泊3日、ほぼ徹夜で議論しました」という。最終日に空き家のオーナーに対して、再利用のプレゼンテーションを行い、認められたものが実行に移される。
日神山さんたちのコンセプトは「タウンステイ」。椎名町全体を一つの大きな宿としてとらえ、その基点を「一平」にするというもの。「住む人の日常生活が知りたい」といった外国人向け旅行者の宿として活用してもらい、周辺の飲食店、銭湯などを紹介する。一方で、カフェを町に多く住む「高齢者」「単身者」「子育て世代」の接点の場にする。
「『外から人が来てくれること、外貨を稼ぐこと』『ここに住みたいと思えること』、この2つをポイントにしました。町に人が来てお金を落としてもらうことが、地域の継続的な発展につながると思ったのです』。(日神山さん)