江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2018年1月17日

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江藤哲郎 (えとう てつろう)

ベンチャーキャピタリスト

 鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。同年(株)アスキー入社。86年マイクロソフト(株)設立に参加し、マーケティング部長代理としてWindowsコンソシアム、マルチメディア国際会議等を立ち上げる。

 92年(株)電通入社後、デジタル・コンテンツの開発とビジネス化を推進。2002年から情報システム局でSAPアジア共通会計システムを中国・アジアの30拠点に導入他、国内外の全システム開発を担当。2013年から経営企画局専任局次長として、電通が約4,000億円で買収したイージスとのグローバルIT統合の責任者。

 2015年7月、ワシントン州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、ビッグデータ等スタートアップを日本と繋げる。家族は妻と一男。
 

競争と協調を同時並行して進める2強

 2017年10月26日にアマゾン、マイクロソフト両社は四半期決算を発表したが、AIを中核とするクラウド事業が躍進し両社の株価は1日で10%近くも上昇。そのため、それぞれの創業者であるジェフ・ベゾスとビル・ゲイツの持ち株評価が拮抗し、世界一の富豪が日替わりで入れかわる様が三面記事の如く報道された。豊富な手元資金を基に、これら2強の研究開発予算は各社100億ドルを超える時代に入っている。スタートアップに対し加速するM&Aは、事業より人材を買うAcquihire(Acquire+Hireの造語)が主目的だ。

無人コンビニ amazon go ©️Naonori Kohira

 夏に行われたジェフ・ベゾスとサティヤ・ナデラとのトップ会談で両社は、AIの総合接続を行うことで合意した。プレス的に解り易い話としてAlexaとCortanaが相互に会話できるようになった話として伝わったが、技術的にはVisual Studioなど両社の開発環境内でGluonというAPI経由で両社のマシン・ラーニング・プラットフォームを使えるようにする。開発者にとってはまさに画期的な朗報だ。こういったオープン化に伴い、前述のAIアーキテクトの需要は増す一方だ。

 競争と協調を同時並行して進める2強。グーグルを加えたいわゆるAI3強は、毎週のように新しいAI関連の新技術やサービスを発表しており、AI戦略をほぼ四半期毎に更新するスピードの速さだ。年次では毎年4月にアマゾンがAWS Summitで先陣を切り、その後Microsoft Build、Google I/Oの順に発表しパートナーの自陣への囲い込みを図っている。この3社の発表順がAWSを筆頭とするクラウドのシェア順位を反映しているのも興味深い。

 大手開発会社であるSlalomやTeraweはマイクロソフトのAI開発を受託している。いわば同社のTier1パートナーであり、大量のデータ・サイエンティストとマシン・ラーニングの使い手を擁する。彼らはグローバル企業へAIを導入する際に、マイクロソフトだけではなく複数社の技術を使っている。クライアント企業が既に部分的にどこかのAI技術を使っている例が多いからでもあり、要は「良いとこ取り」ができる技能を持ち合わせている訳だ。その際AIアーキテクトはまず事業のペインポイントを理解し、Azureマシン・ラーニングやAWS SageMakerを使いこなしながら、先端技術を最適に組み合わせた形で解決策を提供する。日本企業にとっても彼らから学ぶところは多いはずだ。

 シアトルではAI やIoTに関するミートアップが毎日のように行われている。そこにワシントン大学などでAIを学ぶインド、中国系の留学生も参加し、各社のリクルーターも跋扈するなど活況を呈している。そういった場で注目を浴びる存在なのが、ノースイースタン大学シアトル校の学生達だ。同大は東海岸の名門だが、なぜシアトル中心部しかもアマゾン村と呼ばれる旧社屋群のど真ん中に開校したのか? コンピュータ・サイエンス学部のディレクターであり実践的なAI講座を手掛けるイアン・ゴートン博士に聞くと「ボストンではAIの研究は盛んだが、開発スキルを教える講師を集めるのが難しい。この街はアマゾンやマイクロソフトでマシン・ラーニングを使いこなす現役のAIアーキテクトを招聘できる」と答える。「受講は中国、インド、韓国からの学生が多い。優秀な成績を収めると、すぐ2社が好待遇でリクルートして行く」とも。

 地球規模で人材を引き寄せ、研究機関や企業に取り込み新たな価値を創造する。その中から起業したスタートアップはグローバル展開を目指し、それがまた人を呼ぶ。当地のAIイノベーションのエコシステムは東海岸、シリコンバレー、中国、アジアにまでニューロンの様にネットワーク化し、人と企業を惹きつけている。残念ながらそういった場面で日本人を見かけることが減ってきた。保坂氏は「日本人はマイクロソフト社内で絶滅危惧種」とこぼす。中印とは人口の差があるからとも思うが、韓国やベトナム系の優秀な研究者に会うことも増えてきた。

 これはシアトルだけで見られる現象ではないだろうが、新興国からの留学生は現地で就職したり起業したりする例が増えている。インド人ITコミュニティは、オフショア受注ビジネスからの脱却を目指し起業家の輩出に注力している。第2回『”Indus”アントレプレナーシップ グローバル市場を狙うインドの戦略』で紹介したTiE(The Indus Entrepreneurship)はその代表例で、毎春サンタクララにインド人起業家など5000人以上が集結するイベントを主催する。一方で、日本からの留学生は期間終了後に母校に帰り日本の大企業に就職するケースが多くみられる。修士課程も企業の派遣で来ていると、その会社に戻るのは当然だ。これまではそういった卒業生が日の丸企業戦士となり、また世界中でビジネスをし貿易立国日本を支えてきたのは事実だ。だが競争環境が一変し、人口は減る中でどうすべきか?学生、企業、日本全体としても大きな課題だ。

 シアトルで四半期毎に開催されるAIミートアップのオーガナイザーであるトム佐藤は、昨11月新たにInnovation Internship for International Student を開催した。これは留学生とスタートアップが交流しインターンのための個別面談もできるミートアップだ。多くの留学プログラムでインターン経験は必須だが、学生が限られた時間内で最適な機会を探すのは難しい。スタートアップはグローバル化に伴い日本、中国、EUなど海外市場開拓の際、言葉や文化の障壁を埋めるサポート人員を多く求めている。双方のニーズをくみ取る形で開催した第1回は、AIスタートアップの中でも日本市場への進出に際し要員確保が急務なDefinedCrowdが参加し面談と採用を行った。こういったチャレンジの場で、日本からの留学生が見られたのは良い兆しと考えたい。

  
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