定年バックパッカー海外放浪記

2018年6月10日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年生まれの62歳。横浜生まれ、神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

ロシア女子の語るドフトエスキーの世界観

 4月1日。朝食のテーブルでセント・ピータースバーグ出身の高校の国語教師、オルガと一緒になった。ロシアの高校の国語教育に興味を持った。日本の高校の国語教育では古典・漢文が不人気で、しかも大学受験で現代国語しか出題しない私大が増加していることから益々古典・漢文は生徒から疎んじられるようになっている。

 ロシアの高校での古典はトルストイ、ドフトエフスキー、チェーホフ等のロシア文学作品を指すという。やはり現代ロシアの高校生には敬遠されているようだ。一つは現代ロシア語しか知らない高校生には100年以上も昔の19世紀・20世紀初頭のロシア語は読みづらいこと。夏目漱石や森鴎外の初版本が現代日本人には読みにくいのと同様であろう。

 もう一つは高校生が電子ゲームに憑りつかれてしまっており、小説に対しても素早く劇的なストーリー展開を期待してしまう。それゆえ長編大作の古典に対してもストーリー展開を求めて飛ばし読みしてしまうという。

 オルガ自身も教師となってからこうした古典作品をじっくりと読むようになったという。そもそも深い人生哲学が語られているので、高校生はおろか成人でも理解が難しい部分があるようだ。特にドフトエフスキーは奥が深く、“常人ではない“(insane)という。彼が狂気を内在した人間であるから犯罪者の心理をかくもリアルに描写できるとの解釈。ドフトエフスキーは実生活でもギャンブル依存症であったし、物議を醸しだす(Controversial)人物であったという。

 オルガは“罪と罰”の舞台であるサンクト・ペテルブルク(セント・ピータースバーグ)で生まれ育った。町を歩いていて物語で語られている建物や橋を通るときに、しばしば“罪と罰”の一節を思い浮かべて19世紀の小説の世界にタイムスリップするという。「これは私の特権かしら」と微笑んだ。

コルカタの壮麗なビクトリア朝時代の記念堂

ポカラ湖畔で“小林一茶”

 朝食後にポカラ湖畔のプロムナードを散歩していたら一軒のカフェに「韓国語教室・無料」と英語で案内板が出ていた。カフェはネパール人の旦那と結婚した韓国女性が経営。彼女の6歳の長男と一緒に韓国の小学校国語教科書を教材に勉強した。30分ほどしたら男児は勉強に飽きてしまい遊びに行ってしまった。

 彼女は元々ライターで現在は日本の俳句を韓国に紹介する本を執筆中とのこと。松尾芭蕉の句はいくつか知っているものもあったが、小林一茶の句は知らないものばかり。彼女は高校時代から日本語を独学しており、英語・ネパール語以外に日本語も堪能であった。彼女が俳句について難しい質問を連発するのでタジタジとなって早々に退散。

ウェブ・デザイナーの夢はファンタジー小説家

ダージリンの山村にあるチベット難民村の織物工房。若者は出稼ぎに出ており難民村に残っているのはお年寄りばかり

 4月6日。カトマンズのホステルの屋上で朝食後のお茶をしていたらロシア女子のイリーナと一緒になった。イリーナはモスクワ大学でIT工学を専攻したという才女。卒業後はウェブ・デザイナーとして働いている。

 今回は友人と一緒にヒマラヤ・トレッキングを計画。ところが友人はモスクワ空港での出発間際にパスポートを忘れたことに気づき旅行を断念。結局イリーナは単独でエベレストのベースキャンプまでリュックを担いで歩いてきた。スレンダーな外見に関わらず強靭な体力である。

 イリーナは大のロック好きで、ヘッドセットで大音量のロックを聴きながら仕事をしているという。クラッシック音楽も大好きでアパートの近くにあるコンセルバトワールにちょくちょく出かけるという。コンセルバトワールはチャイコフスキー音楽院にあるコンサートホールである。

 子供の頃、一家でクレムリンの中にある劇場でバレーを見て以来バレーの虜となり、子供の頃はバレリーナを目指していたという。ちなみに、このクレムリンの劇場はソ連邦時代に共産圏の諸国諸地域の共産党の代表を集めて政治大会を開いた場所であり、平時には劇場として一般に公開されている。

 イリーナは趣味でファンタジー小説を書いており、将来はウェブ・デザイナーの仕事を辞めてファンタジー小説家になりたいと夢を語った。バレリーナを夢見た頃の乙女チックな感性が甦ってきたのであろうか。

⇒第12回に続く

  
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