栄養学から考える「食と健康」

2018年9月3日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

「野菜先食べ」論文の真相は……

佐々木:炭水化物を先に食べる群と野菜を先に食べる群を比較して食後血糖が上がりにくい、という論文があります(図1)。血糖値は胃に入った糖質が血液中に吸収されて上がります。胃の中にあらかじめ野菜を入れておけば、からっぽの胃に糖が入ってきたよりも血糖値の上昇が緩やかになるのは道理です。

図1 食後血糖値の推移
日本人の糖尿病の患者38人を19人ずつ無作為に分けた。片方の群は3食とも野菜を先に食べてからごはん(炭水化物)を食べ、もう一方の群は3食ともごはん(炭水化物)を食べてから野菜を食べるようにしてもらい、24時間にわたって血糖値を継続的に測定した。縦軸は群ごとの平均血糖値(mmol /l)。
(出典:論文1の図を日本語に改変)

 でもね。食事する時にごはんやパンなどの主食、つまり炭水化物のみを先に食べる人なんて、実際にはいませんよ。この研究結果を基に、今の食べ方よりも「野菜先食べ」がよい、というのは無理があります。それに、これは24時間の結果です。糖尿病に効果があるか調べるには、もっと長期の調査が必要です。

 そのため、現在最も広く行われている食事指導である「糖尿病食事療法のための食品交換表」を使う方法と、野菜を主食(炭水化物)よりも先に食べる食事の効果を、ヘモグロビンA1cを指標に調べる研究も行われています。

 ヘモグロビンA1cは、最近3カ月程度の血糖値が高かったか低かったかおおまかな状態を教えてくれる検査数値です。

 その結果が図2です。どちらの方法でも最初の3カ月でヘモグロビンA1cが大きく低下し改善しています。それに、野菜を主食よりも先に食べる群のほうがさらに下がっています。

図2 糖尿病の人の食べ方の違いによる2年間の推移
日本人の2型糖尿病の患者101人を、野菜を主食(炭水化物)よりも先に食べる群(69人)と食品交換表を使う群(32人)に無作為に分け、2年間にわたって指導を行い、ヘモグロビンA1cの変化を追った。
(出典:論文2の図を日本語に改変)

松永:24カ月、つまり2年間の結果ですから、これは確定的ですね。やっぱり野菜先食べは効く。

佐々木:ところが、そうとは言い切れないのです。

 両方の群に、具体的にどのような食べ方を勧めたのか、見てください。

 野菜を先に食べる群は、緑色野菜の摂取をすすめる/果物の摂取を控えるように勧める/20回咀嚼するように勧めるなど、項目が上乗せされています。

 一方、食品交換表を使う群は、野菜と果物の摂取量が具体的に示されるなどしていました。

どのような食べ方がすすめられたか

■野菜を主食(炭水化物)よりも先に食べる群
食事の順序を指導する/緑色野菜の摂取をすすめる/果物の摂取を控えるようにすすめる/20回咀嚼するようにすすめる/グリセミック・インデックスの低い食品を選ぶようにすすめる/指導時間は初回
30分、2回目以降は20分(グリセミック・インデックス:食品ごとの血糖値の上昇の程度を示すと提唱されている指標)

■食品交換表を使う群
食品交換表を用いて指導する/1日あたり野菜を350g、果物を80g摂取するようにすすめる/指導時間は初回60分、2回目以降は40分

 二つの群で食べる順序だけが異なりそれ以外はなにも違わないのであれば、ヘモグロビンA1cの変化の違いは野菜先食べによるもの、と言えます。でも、そうではありません。

 論文を読むと、1日あたりの食品群の摂取量に変化が起きていたことが書かれていました。両方の群で緑色野菜を食べる量を増えていますが、野菜先食べ群は112g、食品交換表群は49gで、野菜先食べ群が63gも多く食べています。一方、米は両群共に減っていますが、野菜先食べ群はマイナス151g、食品交換表群はマイナス83gです。

 少し意地悪な見方をすれば、野菜をたくさん食べ果物とごはん控えめ、グリセミック・インデックスの低い食べ物を選んでしっかり食べたら、野菜先食べをしなくても、ヘモグロビンA1cが下がりそうな気がしないでもありません。

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