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2018年10月11日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

「里帰り」を歓迎

 グーグルの日本法人は01年に日本法人を設立した時は渋谷駅から歩いて5分の所にあるセルリアンタワーの中に入っていた。その後、オフィスが手狭になり10年に港区の「六本木ヒルズ」に移転していた。グーグルは「渋谷ストリーム」の14階から35階までの全フロアを使う予定で、現在の社員数約1300人の倍以上収容できる広さがあるという。このビルを拠点に日本での事業展開を拡大させる計画で、文字通りITビジネスの新たな拠点になりそうだ。

 駅前再開発の事業主体である東京急行電鉄の高橋和夫社長は「渋谷ストリーム」のオープンの際に「グーグル日本が渋谷に戻って来ることで、クリエイティブコンテンツ産業が日本一集積する渋谷の街全体でさらなるイノベーションの創出や、人的交流の起爆剤になることを期待している」と話し、グーグルの「里帰り」を歓迎している。

 もともとこの地区はベンチャー企業が多く、ビルオーナーの中には「ベンチャーが出世して稼げるようになるまでの間は家賃ただで構わない」という奇特な人もいたりする。設立して間もないベンチャーが混在しているビルが多数あるなどして、ITエンジニアにとっては関連情報を手軽に得ることができるため、仕事のしやすい地区になっていた。

 だが、家賃がこれほどまでに高騰すると、家賃の安い地区に脱出するベンチャーが出るのではないか、家賃の値上がりが影響してベンチャーの本来の目的である開発の研究費が削られるのではないかという心配の声も聞こえてくる。

「ビットバレー」再び

 この地区一帯は、1990年代半ばから2000年代初めにかけて、サイバーエージェント、DeNAなどのITベンチャー企業の進出が相次ぎ、グーグルだけでなく、アマゾンも渋谷に本社を置いていた。ベンチャー企業が集まっていたことから当時の渋谷は、米国サンフランシスコ郊外の「シリコンバレー」になぞらえて「ビットバレー」と呼ばれた時期があった。しかし、10年以降は渋谷駅周辺のオフィスが手狭になったことや、家賃が高くなり過ぎたことで、IT企業が渋谷から出て五反田や六本木に分散し、この数年は「ビットバレー」の名称は消滅しかかっていた。

 ところが、グーグルが戻ってくることになり、「ビットバレー」の復活を目指す動きが活発化している。9月10日には渋谷区文化総合センターで、サイバーエージェント、GMOインターネット、DeNA、ミクシィ、長谷部健渋谷区長などが参加してテックカンファレンス「「SHIBUYA BIT VALLEY 2018」が開催され、グーグルの本社が戻ってくるのを機に、渋谷駅前地区をITベンチャー企業が集積した街にするにはどうしたらいいかを話し合った。駅前再開発の事業主体である東急電鉄も、渋谷がエンタテイメントシティになることを期待しており、関係者は「グーグル効果」がどこまで続くか注視している。

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