2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年11月26日

 中東では主要国の関係が変わり、地政学的変化が起きているが、その主役はトルコである。中東では、かつてはエジプト、イラク、シリアと言ったアラブの強国が大きな影響力を持っていたが、これら諸国はそれぞれの事情で影響力を失った。残されたアラブの大国はサウジであるが、ムハンマド皇太子が音頭を取ったカタールの孤立化、イエメン内戦への深入りは、いずれも外交上の失政であった。そこにカショギ殺害事件が起き、サウジの評価は地に落ちた。トルコの台頭の背景には、地域のアラブ主要国の影響力の低下がある。

 エルドアンはサウジに対抗して、トルコがスンニ派イスラム世界の指導者であると自らを任じているようであるが、それは難しいだろう。サウジの強みは、メッカ、メディナというイスラムの二大聖地の所在国であることである。特に毎年行われるメッカ詣での巡礼を主宰することで、イスラム世界に隠然たる影響力を持っており、トルコは太刀打ちできない。

 クラークとタバタバイは上記論説で、トルコはいまやかつてないほど反西欧であり、NATOから離れつつある、と指摘しているが、トルコがNATOから離脱することはないだろう。エルドアンは11月2日付のワシントン・ポスト紙に投稿し(‘Saudi Arabia still has many questions to answer about Jamal Khashoggi’s killing’)、カショギ殺害事件について「何者もNATO同盟国の地で、そのような行動をとるべきでない」と述べ、トルコがNATO同盟国であることを明らかにしている。トルコはロシアからS-400ミサイルシステムを買おうとしているが、これはNATOから離脱することを意味するものではなく、NATOを牽制しようとするエルドアン一流の策であろう。

 エルドアンの頭痛の種は経済不振である。経済の活性化には米国、EUとの関係が欠かせない。米国との関係ではトランプが強く要求していたブランソン牧師の釈放に応じ、米国との関係改善の意思を表した。エルドアンは多くの点で利害の一致するイラン、ロシアとの関係強化に努める一方で、NATO同盟国の地位は確保し続け、米国とEUとの関係の改善にも努めるだろう。

  
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