2024年4月26日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年1月8日

取り残された人々はどこに行ったのか

 本作のタイトル『迫り来る嵐』は、『暴雪將至』というオリジナルタイトルをかなり直訳的に用いている。全編、雨のシーンがやたらに多い。だが、本当の嵐はこれからだ。その嵐の隠喩は、改革開放による中国の大変化である。改革開放が中国社会の「人間」にいかなる変化を起こしたかの検証はまだ十分に行われていない。中国では社会学的調査は非常に難しいからだ。

© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited

 考えてみてほしい。1970年代を界に、中国は文化大革命のイデオロギー万歳の社会から、金儲け至上主義の社会へと、一気に方向転換を遂げた。その変革を主導した鄧小平の果断な舵取りは見事であり、その新しい社会に適応した人々は今日の成功者となったが、取り残された人々はどこに行ったのだろうか?総中流社会に親しみ、わずかの格差で「下流」だと慌てる日本人には想像もつかない「暴雪」が、中国の1990年代には吹き荒れたのである。

 ユイの恋人がつぶやく。「(1997年がきたら)香港には簡単に行けるようになるのかしら」。それは、改革開放の流れに乗れない者のつぶやきだ。それまでの香港は中国人にとって憧れの地だった。今の香港は反中感情が吹き荒れ、中国人も「香港には何もない」と吐き捨てる時代。すでに90年代の香港と中国の関係は完全に失われたことも思い起こさせる。

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