WEDGE REPORT

2019年4月17日

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倉都康行 (くらつ・やすゆき)

RPテック代表取締役、国際金融評論家

1979年東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカース・トラストを経て、チェース・マンハッタン銀行。2001年4月に金融シンクタンクのRPテック株式会社を設立。

 こうした厳しい制裁方針は、当然ながら他国のドル依存体制にも影響を及ぼしていく。米国の核合意からの離脱でドル利用が困難になったイランは、欧州諸国と共同で非ドルの決済システム構築を検討中であり、ロシアはユーロ中心となっている外貨準備においてドル保有をさらに低下させたと言われている。中国が米国債保有額を徐々に低減させていることも明らかになった。今後2年間のトランプ政権運営下で、ドル保有額が一段と減少する可能性は高い。

 こうした新興国におけるドル保有の引き下げは、財政赤字や経常赤字を懸念した従来の「ドル離れ」とは性格が異なり、「ドル嫌い」といった方が適切なのかもしれない。準備通貨としての地位は認めざるを得ないが、制裁によって身動きを縛られることになれば、自国経済が麻痺(まひ)しかねない。その防衛策として、幾つかの国々で発動されているのが「金への逃避」である。

 昨年8月に1195ドルまで下落した金は今年に入って上げ足を早め、1340ドル台にまで上伸し、その間10%を超える上昇率を記録している。ドル金利のピーク感や地政学リスクへの懸念などを背景に金を選好する機関投資家が増えているが、新興国などの中央銀行も昨年来着々と金購入を継続している。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)にれば、18年の各国中銀やIMFなどの公的部門に拠る金購入量は前年比74%増の651・5トンと1971年の金ドル兌換(だかん)停止以来の最高水準を記録した、という。

(出所)World Gold Council資料を基に筆者作成 写真を拡大

 その牽引(けんいん)役となっているのがロシアであり、昨年の金購入量は274・3トン、金額では270億ドルとともに過去最高記録を更新している(右図)。中銀全体の購入量も過去最高に達したと推定されるが、ロシアはいずれも40%以上を占めており、その外貨準備における金保有比率は18%前後に上昇したようだ。ドイツやオーストリア、インドネシアなど金売却を進めた国もあるが、ロシアと同様に金購入を増やしているのがトルコやカザフスタン、インド、ポーランドといった国々である。

 インフレ・ヘッジという従来の金選好要因は低インフレが続く今日では説得力を失っているが、政治的なヘッジという判断での金購入には合理性がある。信用通貨へのアンチ・テーゼとして生まれた暗号通貨への信頼性が失墜したいま、ドルの逃避先としてはまず金だ、というのが実態なのかもしれない。

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