2024年4月27日(土)

経済の常識 VS 政策の非常識

2012年2月23日

 しかし、通貨が下落したからと言って、その国が全体として困るわけではない。現に、ウォン安の恩恵を得て、韓国企業は日本との競争力を増している。困ったのは、外貨建ての借金をしすぎていた企業だけである。韓国も、97年には、このような企業を救おうとしたのだができなかった。しかし、これが、韓国にとって幸いだったのである。政府とのコネクションではなく、世界の市場に打って出ることが利益を得る唯一の手段だと、韓国企業は覚悟を決めた。これが、日本との競争に勝ち続ける理由となった。

 ユーロの話に戻ろう。ユーロが暴落する可能性がある訳ではない。ユーロは下落しているが、それはむしろ、ドイツの製造業にとって心地よく、日本の製造業にとって不都合というレベルだ。危機はギリシャやポルトガルやスペインやイタリアが、国債を償還できないのではないかという問題だ。なぜ、返せないかといえば、借りすぎたからだ。ユーロ以前では、そもそも借りることができなかった。

 00年末まで、ギリシャの通貨はドラクマで、なんども通貨を切り下げてきた。そんな国の通貨建てでお金を貸してくれる外国の銀行はない。外貨建てで借りれば、ドラクマが切り下がったときに酷い目に遭うから、借りるギリシャ人はいなかった。

 ところが、01年1月1日からギリシャの通貨はユーロになった。通貨がユーロになったからと言って、借りているのはギリシャ政府で、ユーロ政府ではない。そもそもユーロ政府なんてものは存在しないのだから、ギリシャ政府が返すしかない。

ギリシャはデフォルトしかない

 帝国主義の時代なら、軍艦を送って、「カネを返せ、パルテノン神殿をかたに取り上げろ」となるのだろうが、現在では、そんなことは不可能なのだから、貸したほうが泣き寝入りするしかない。泣き寝入りするしかないと分かっていたから、貸さなかったのだ。あるいは、数年後に泣き寝入りしても大丈夫なだけの十分な金利を取らなければ貸さなかった。

 もちろん、ギリシャの通貨がドラクマで、ドラクマ建ての借金ならギリシャはドラクマ札を刷って返すことはできる。そんなことをすればインフレになるだろうが、返すには返している。しかし、ユーロ建てなら、いくらドラクマを刷っても返せない。ドラクマを刷れば、ドラクマが下落してユーロ建ての借金が増えるだけだ。

 つまり、ギリシャがユーロから離脱したところで、何の解決にもならない。これを通貨危機というのはおかしい。

 ユーロ政府などないと誰でもが知っているのに、金融政策は統合したが、財政政策が統合されていないから問題だと議論している人は、自分の誤解を現実にしようとしているだけだ。ギリシャに貸した金を泣き寝入りせずに返してもらいたいのである。しかし、自分の勝手な誤解のツケを、他の欧州の納税者に押し付けるのは虫の良い話だ。

 もちろん、ギリシャや他の国々が債務不履行になれば、その国に貸しているドイツやフランスの銀行は困る。しかし、ユーロ政府などないのにギリシャにお金を貸した判断が誤っていただけだ。それでドイツやフランス経済に大混乱を起こすのなら、両国政府が自国の銀行を救えば良い。そうすれば他国の納税者に迷惑がかからない。

 ギリシャを救って、結果的に独仏の銀行を救おうとすれば、無駄にギリシャにお金が流れる。必要なところに、ピンポイントでお金を流すのが一番効率的に決まっている。

 

◆WEDGE2012年2月号より


 




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