世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月10日

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 トランプ大統領は、アフガニスタンからの米軍撤退に係わるタリバンとの交渉を急がせてきた。これは、地域における力の真空を招き、テロリストの跳梁や周辺国の介入といった不安定化につながるとして懸念視されている。そうした中、9月5日のタリバンによるカブールにおける自爆テロで米兵を含む12名の犠牲者が出たことで、タリバンとの和平交渉の中止を表明した。トランプのアフガン政策の根本的な方針転換を意味することになるのだろうか。これまでの交渉の経緯を振り返ってみると、次の通りである。

Sapunkele/MaryValery/iStock / Getty Images Plus

 ザルメイ・ハリルザード(アフガニスタン和平担当特別代表)が交渉していた合意では、タリバンがアルカイダと絶縁することと引き換えに、1万4000人の米軍とNATOの部隊が撤退することになるとのことであった。トランプはまず最初の5000人の撤退を発表したくて苛立っていたようで、既にその準備が始まっている、とも報じられていた。

 ハリルザードの交渉で見えつつあった合意によると、アフガニスタン政府の崩壊、基本的人権を否定するタリバンの過酷な独裁、IS系を含む過激派グループの勢力拡大のような結果を防ぐ保護措置は弱い。合意を完成させようと急ぐあまり、保護措置は後退して来た。タリバンは政治解決についてアフガニスタン政府と交渉することに合意し、停戦についても何らかの約束をするようである。しかし、そのいずれについても、規定は詳細で明確なものではない。

 8月18日のカブールの結婚式場での自爆テロ(ISが犯行を声明)は今なお不安定な政治・治安情勢を示している。混乱が権力の空白を作れば、近隣諸国の介入の誘因ともなる。そのような事態を避けるための環境を整備するため、ドーハで米国はタリバンと交渉を重ねて来ていたところである。

 これまでの米国の目標は遅くとも9月28日のアフガニスタンの大統領選挙の前に合意を得ることであった。そういう時間的に切迫した状況でハリルザードは不利な交渉を強いられていた。一方、タリバンにとっては米国が撤退したがっていることを見越しての交渉であるから、強い立場での交渉ということになる。仮に、一旦合意が成ったとして、タリバンが合意を破るのは容易である一方、米軍が撤退を始めれば、これを逆転させることは至難であり、それだけにタリバンに求める行動と米軍の撤退スケジュールをどう組み合わせるかには慎重を要することになる。しかし、どのように工夫しても、情勢の動揺は避けられないところである。

 トランプは早期の部分撤退を欲してきた。2020年の大統領選挙の前には完全撤退を目指している。従って、タリバンとの合意の完成を急がせていた。この動機に変化があるとは思われない。ということは、タリバンとの交渉を再開する可能性は十分あり得るのではないだろうか。

 仮に、タリバンと交渉が再開されるとして、合意が米国にとって受諾可能なものであるためには、少なくとも二つの条件が充たされる必要があろう。一つは、合意において、タリバンは、アルカイダと絶縁し、アフガニスタンをISなど国際テロ組織のプラットフォームにしないことを保証するようであるが、タリバンにその能力がある筈もなく保証を信用する訳にも行かない。ここは、米軍のテロ対策の部隊の残留とバグラムおよびカンダハールの空軍基地へのアクセスを確保することが必要になろう。

 もう一つは、タリバンとアフガニスタン政府の和解を米軍の最終的な撤退の条件とすることである。第一弾として、トランプは、1万4000人のうち、4000ないし5000人を撤兵することを主張してきたが、これは2017年のトランプ就任の時点の規模に戻るだけであるので、問題は少ないかもしれない。しかし、最終的な撤退は別である。このような条件を付したとしても、将来を担保は出来ないが、少なくとも両者の合意が成らないままアフガニスタン政府を見捨てることは米国としては無責任のそしりは免れないであろう。

 以上に関連するが、リンゼイ・グラム上院議員は、国務・国防両長官が米軍撤退が米国本土を危険に晒すことがないことを議会に対し180日毎に証明することを義務付ける法案を提案する由である。

 しかし、アフガンにおいて民主的で統一された政治制度や女性の基本的人権の保護のための体制を作ることは、米国の視野からはとうに失せているように思われる。トランプがタリバンとのアフガニスタン撤退交渉でリスクを冒す可能性は依然としてくすぶり続けていると言えよう。

  
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