立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年9月8日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

「香港人権法案」とはどんな法律か?

 まず、香港返還後の高度な自治を保障する「中英連合声明」の担保。声明は国際条約同等とされる地位を有している以上、中国だけでなく、国際社会が香港の自治を認めなければならない。なぜならば、香港は世界屈指の国際都市であり、いろんな国が香港に事業を展開し資産を保有しており、米国民だけでも8万人以上居住しているわけだから、全員の利益が絡んでいるからである。

 次に、香港の特別待遇の問題。社会制度の異なる中国本土と違って香港は西側自由社会の一員として、植民地時代から法の支配や自由経済といった分野でいずれも国際基準に達していたことから、「香港政策法」の下で米国は香港に通商や投資、出入国、海運等の諸方面において特別待遇を提供するという約束がなされた。

 しかし「香港政策法」には不備があった。つまり、香港が特別待遇を受ける際に、十分な自治が与えられているかどうかを判断する基準が明確ではなかった。中国は香港をコントロールしながらも、米国が香港に付与した特別待遇を濫用・悪用していないか、これを監督し、牽制する機能が必要だった。「香港人権法案」は「香港政策法」の強化版としてこの機能が盛り込まれた。

 さらに、上記の監督・監査権に加え、罰則も用意された。香港の自治権の毀損が認められた場合、米国は香港に与えてきた特別待遇を打ち切ることができるようになる。香港の人権や民主・自治を侵害した者に対して、米国における資産を凍結したり、米国入国を拒否したり制裁することも可能になる。この制裁措置の意義が非常に大きい。たとえば、今回のような市民抗議活動に対して当局が武力を動員して鎮圧したりすると、その関係する当局者らが制裁対象とされる可能性が出てくる。

 「香港人権法案」の下で、米国国務長官は香港が「中英連合声明」や「基本法」、「国際人権規約」等に基づき、人権や自由ないし自治をきちんと保障しているかどうか、人権侵害で制裁対象となる人物がいるかどうかを検証し、毎年レポートにまとめて米国議会に提出しなければならない。

 分かりやすくいえば、香港は上場企業のようなもので、経営の透明性が必要であり、それを検証する監査役を米国が引き受け、毎年監査報告書を作成し、開示し、そこで国際社会の信頼を得るということである。

 中国がこの法案に激しく反発している理由としては、これで香港独立の機運が高まるのではないかという懸念が挙げられている。米国は、いやそれは違うと反論するだろう。民主と人権はいずれも一国二制度、基本法によって保障されている権利なのだから、これらについて国際社会の監督を受け、問題なく太鼓判を押されれば、逆に香港の信頼度の向上につながるのではないかという論理である。

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