2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月24日

 さらに新疆ウイグル自治区には、自治区の行政組織とは全く別に、平時には新疆開発、非常時には軍事組織として対外防衛や独立運動鎮圧にあたる《新疆生産建設兵団》が厳然と存在していることに注意しなければならない(http://www.xjbt.gov.cn/)。中国共産党の元老の一人・王震が、革命根拠地・延安での「生産し戦うゲリラ」モデルを新疆で実践し、社会主義建設と国防建設を加速するべく生まれたこの組織は、今や新疆ウイグル自治区の統率を一切受けず、新疆ウイグル自治区の統計にも入らない、自治区の中の《独立王国》として巨大な利権を有している。

 具体的には、自治区人口2181万人のうち、ウイグル人882万人、カザフ人135万人、他のトルコ・イラン系ムスリムを合わせても約1040万人であり、これだけでも漢民族や、漢語を話すムスリム(回族)の勢力に圧倒されている。そして自治区の2011年度総生産額は5437億元(一人当たり24940元)である。これに対し、ほとんど漢民族で占められる新疆生産建設兵団の人口は約260万人であり、総生産額は770.6億元(一人当たり29639元)である。この数字だけをみても、生産建設兵団が如何に特殊で特権的な地位にあるかを理解出来よう。そして、新疆ウイグル自治区党書記と、新疆生産建設兵団第一書記は漢民族が兼務するのがならわしである。

やむことのない漢民族からの偏見や差別

 かくして、ウイグル人を始めトルコ系ムスリムは、自らの土地で利権の多くが漢民族(及び回族)に流れ、資源の分配が偏在している現状にいっそう不満を抱かざるを得ない。

 しかも中国は、ウイグル人のごく一部が国外のテロリストと結びついて1990年代以降各地で爆弾テロなどに及ぶようになって以来(とくに9.11以後)、アル・カーイダなどイスラム原理主義テロリストとウイグル人の独立運動を結びつける宣伝を国内外で行い、チベットに対して集まった国際的注目が新疆には向かわないよう腐心している。

 しかしそれゆえに、現実の苦難の度合いはチベットよりもウイグルの方が深刻である。チベット人は国外から同情を集めているのみならず、中国国内でも仏教の聖地として注目を集めている。これに対しウイグル人は「反テロの戦い」「キリスト教文明vs.イスラム」といった言説の影で国際的注目が集まらないのみならず、中国国内でも一目で分かる中央アジア系の顔立ちのゆえに、「分裂主義分子=テロリスト」という宣伝を真に受けた漢民族からの偏見にさらされるようになった。

 この結果、中国国内を旅行中のウイグル人が、宿泊拒否や滞在地警察の執拗な取り調べに直面する事態が激増しているといわれる。2009年、ウルムチで起こったデモ行進の原因となった、広東での出稼ぎウイグル人殺害事件の背景には、このような構造的差別がある(このへんの事情について詳しくは、黄章晋、鈴木将久訳「さよなら、イリハム」『世界』2009年12月号を参照。漢語を読める方なら、王力雄『Ni的西域、我的東土[あなたの西域は私の東トルキスタン]』台北・大塊文化、2007年をご覧頂きたい)。

体制内にいたラビア・カーディル氏

 世界ウイグル会議主席であり、中国が「分裂主義者」と非難してやまないラビア・カーディル氏は、もともと改革開放が始まって以来零細な個人経営者から出発して中国十大富豪とも称されるようになった立志伝中の人物として、一種の翼賛機関である全国政治協商会議の委員をはじめ自治区の要職に就いた人物であり、本来は体制内の存在としてウイグル人と共産党・政府をつなぐ役割を果たしていた。


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